20190509ゲンカイツツジ覚え書き/関太郎
ゲンカイツツジ覚え書き
ゲンカイツツジ覚え書き(関 太郎)
ゲンカイツツジ(Rhododendron mucronulatum Turcz. var. cilaiatum Nakai)はツツジ属の中でゲンカイツツジ亜属(Subgen. Rhodorastrum (Maxim.) Drude)に属する特異なツツジで,その分布も限られていている.葉の裏面と子房に円形の腺鱗片があることが大きな特徴である.似島の下高山に本種があることは,当時,似島小学校におられた温田家弘先生によって発見され,1978年3月26日に,ヒコビア植物採集会が温田先生の案内で実施された.この時,竹田孝雄先生と松村雅文さんが,初めて,ヒコビア会に参加された.残念なことに,花にはまだ少し早かった[関太郎(1980)ヒコビア植物採集会の近況,ヒコビア 8:453].広島県に本種があることは,『港灣と廣島縣』(1934)のp. 525にあり,「ゲンカイツヽジ 豐田郡忠海町,山縣郡八幡村三段峡」と報告されている.『港灣と廣島縣』は港湾協会第七回通常総会のために編さんされた1084頁に及ぶ大冊である.その第5章天然記念物は指定種以外にも貴重種が列挙されており,ゲンカイツツジはそのひとつである.執筆者が記載されていないが,関が堀川芳雄先生に伺ったところでは,先生が執筆したとのことであった.当時,副手であった高木哲雄氏の協力があったものと思われる.高木哲雄(1937)『安藝三段峡植物目録』にもゲンカイツツジが載っていたように記憶しているが,今,手元に文献がないので確認できない.1956年4月のヒコビア植物採集会が江田島のクマン岳で行われ,堀川先生によって本種が発見され,“クロフネツツジ”といわれたが,それは朝鮮半島に分布する別のツツジで,堀川先生の誤認であった.その後,ゲンカイツツジは県内から続々と発見され,多分,広島県は全国で本種が一番多い県ではないかと思われる.特に江田島には低い海抜から古鷹山の山頂近くまで広く分布し,個体数も多い.
次に示す広島県内のゲンカイツツジの分布は,筆者の記憶によるもので,文献や標本で確認したものではない.追加や訂正があれば,ぜひ,ご教示頂きたい.庄原市:大黒目山,日本ピラミッド.三次市:神之瀬峡.安芸太田町:三段峡[黒淵],辺森,竜頭峡.廿日市市:羅漢渓谷,宮島[榧谷駅→包ヶ浦へ下る尾根,個体数少ない].広島市佐伯区:湯の山,石ヶ谷峡,打尾谷[車から遠望],南区:似島[下高山].江田島市:江田島[古鷹山,クマン岳].呉市:倉橋島[火山頂上付近].大竹市:三倉岳.海田町:日浦山(頂上付近).竹原市:黒滝山,平家山.三原市:白滝山.呉市天応や広島市窓ヶ山にもありそうであるが,記録がない.Yamazaki, T. (1996) A Revision of the Genus Rhododendron in Japan, Taiwan, Korea and Sakhalin, 179 pp., Tsumura Laboratory, Tokyoによれば,日本で本種が分布している県は,長崎県[対馬],福岡県,大分県,熊本県,愛媛県,山口県,島根県,広島県,岡山県で,エヒメアヤメの分布によく似た典型的な大陸要素である.ゲンカイツツジ[R. mucronulatum var. ciliatum]は朝鮮半島の東側から南部に分布し,カラムラサキツツジ[R. mucronulatum var. mucronulatum]は毛が少なく,朝鮮半島の西側に分布している.済州島にはタンナゲンカイ(R. mucronulatum var. taquetii (Levl.) Nakai)が分布し,葉も花も小型である.エゾムラサキツツジ(R. dauricum L.)は北朝鮮から中国[東北]・シベリアを経由して北海道まで達している.日本植物学会第82回大会のポスター発表で,菅野厚志ら(北海道大・三重大・韓国・ロシア)は葉緑体DNAによる系統解析から,ゲンカイツツジ・カラムラサキツツジ・エゾムラサキツツジは東北アジアの種群とともに種複合体を形成することが示唆され,北海道・東シベリア;西日本・朝鮮半島;沿海州の3系統が認められた.
この覚え書きは2019年4月7日のヒコビア観察会(似島)で配布されたものに追加・訂正したもので,情報を寄せられた方々に感謝いたします.