ニホンジカ
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ニホンジカ Cervus nippon
分類
動物界 Animalia > 脊索動物門 Chordata > 脊椎動物亜門 Vertebrata > 哺乳綱 Mammalia > ウシ目(偶蹄目) Artiodactyla > シカ科 Cervidae > ニホンジカ Cervus nippon
解説
- 日本全土に分布する植食動物(植物食動物).複胃をもち,反芻を行う(反芻動物)
- ロシア東部のアムールからベトナムにかけて分布する.
- ニホンジカは大陸に起源を持ち,母系の関係を知るうえで有効なミトコンドリアにコードされた遺伝子による系統解析では南日本のグループと北日本のグループの大きく2つのグループに分かれることが明らかになっている(Nagata et al. 1999, 玉手 2002, 永田 2005, 和田ほか 2010).また,マイクロサテライトの分析では,南北のグループ間で交流がすすんでいるが,生息環境の分断化や小集団化によって地域集団間で遺伝的分化が進んでいることがわかっている(Goodman et al. 2001).
- 東日本の一部で,過去の人為的な移入によるものと推定される南日本集団由来の遺伝的特徴をもつ個体が確認されている(溝口ほか 2017,インターネットリソース).
- 溝口ほか(2017)より引用:「1935年神奈川県丹沢山地札掛地区ではニホンジカの増殖を目的として県営丹沢鳥獣飼養所が開設され、宮城金華山の個体6頭、広島県宮産の2頭、奈良県春日大社産の6頭を飼育した歴史がある(飯村 1965; 田村 2013)」
- ニホンジカの食性について,南北日本で異なることが知られている(Takatsuki 2009, 高槻 2015).南の集団ほど食性中のイネ科植物の割合が小さい傾向がある.
三浦(2008a)より
分布
ベトナムから極東アジア(中国東部,ロシア沿岸地方,台湾,朝鮮半島,日本)にかけて広く自然分布する.ヨーロッパ各地,ニュージーランド,アメリカには人為的に導入され,野生化している.日本産亜種は,北海道(エゾシカ),本州(ホンシュウジカ),四国,九州(キュウシュウジカ),淡路島・小豆島を含むいくつかの瀬戸内諸島,五島列島,馬毛島(マゲシカ),屋久島(ヤクシカ),種子島,対馬(ツシマジカ),慶良間列島(ケラマジカ,導入)などに分布する.ミトコンドリアDNAを用いた系統解析によれば,日本産亜種は北海道から兵庫県までの北日本グループと,それより西の地域(対馬,五島列島,屋久島を含む)の南日本グループに分けられる.
形態
中型のシカで,夏毛は茶色で白斑があり,冬毛は灰褐色である.黒い毛でふちどられた大きな白い尻斑をもつ.新生仔には細かい白斑がある.換毛期は5-6月,9-10月である.顕著な性的二型を示す.雄は角をもち,通常,1歳は1ポイント,2-3歳は2-3ポイント,4歳以上は4ポイントだが,大きさやポイント数は地域や亜種によって異なる.角は毎年生え換わり,成体の角長は30-80 cm.身体のサイズは,雄の方が大きく体重比にして1.5倍以上となる.また,サイズは亜種や生息地によって大きく異なる.最大はエゾジカ,最小はヤクシカである.体重(成体)は雄50-130 kg,雌25-80 kgで,季節によって増減がある.頭胴長(同)は雄90-190 cm,雌90-150 cm,肩高(同)は雄70-130 cm,雌60-110 cm,中足腺がある.眼下腺,蹄間腺は発達していない.
生態
生息環境は常緑広葉樹林,落葉広葉樹林,寒帯草原などが多様であるが,森林から完全に離れて生活することはなく,パッチ状に草原が入り込んだ森林地帯に多く生息する.積雪地域の個体群は雪を避け小規模な季節的移動を行う.落葉広葉樹林に生息するエゾジカやホンシュウジカは,イネ科草本,木の葉,堅果,ササ類などを季節に応じて採食する.とくにササ類は積雪地域の冬の主要な植物である.常緑広葉樹林に生息するキュウシュウジカなどは食性の季節的変化は少なく,1年を通じて木の葉を採食する.反芻胃をもつ.出産期は5月下旬-7月上旬で通常1仔を出産する.2仔出産の率は低い.交尾期は9月下旬-11月で,妊娠期間は約230日で,子どもの性による差はない.初産齢は2歳.最長寿命は雄15歳前後,雌20歳前後である.群れ生活を営むが,通常雄と雌は別々の群れを作る.娘は母親とともに母系的な群れを作るが,雄は1-2歳で母親のもとを離れる.一夫多妻制の社会で,雄の一部は交尾期にナワバリを作り,その中にハレムを形成する.雄は交尾期特有の音声を発し,マーキング,攻撃行動を行う.
その他
- ケラマジカは国の天然記念物に指定されている.
- シカのおじぎについて,催促的な行動であると報告がある(西山ほか 2018).
- マゲシカについてはヤクシカと同時期に分岐した独自系統であることが報告されている(兼子ほか 2023)
- Ohdachi et al. (2015, p. 306)には,"Because sika are religiously important for Japan's native religion, Shinto, they are sometimes kept on the grounds of Shinto shrine, such as Koganeyama shrine in Miyagi Pref., Nara Park in Nara Pref. and Itsukushima shrine in Hiroshima Pref."と書かれている.この文では,宮島でも「神鹿」であることが示唆されているが,宮島のシカは野生動物の一種でしかなく,また同時に厳島神社の神の使いはカラスであってシカではない点に注意が必要である.なお,厳島神社のカラスに関する神事は今でも行われている.
- Hayashi et al. (2023)は,日本列島のシカの成長について骨を用いて調査を行い,北海道と本州の東部のシカは成長が早く,屋久島などの島嶼部のシカは成長が遅いことを報告している.
観察
天然記念物・RDB
- 奈良のシカは国の天然記念物に指定されている.
- ケラマジカは国の天然記念物に指定されている.
慣用名・英名・広島県方言
慣用名
- シカ
英名
- sika deer
広島県方言
ギャラリー
備考
参考文献
- 阿部永, 石井信夫, 伊藤徹魯, 金子之史, 前田喜四雄, 三浦慎悟, 米田政明. 2008. 日本の哺乳類, 改定2版. 206 pp. 東海大学出版会, 秦野.
- 広島哺乳類談話会(編). 2000. 広島県の哺乳類. 169 pp. 中国新聞社, 広島.
- 三浦慎悟(監修). 2012. 植物を食べつくすシカ. 40 pp. 金の星社, 東京.
引用文献
- 三浦慎悟. 2008. ニホンジカ. 阿部 永(監修), 日本の哺乳類, 改訂2版, pp. 110-111. 東海大学出版会, 秦野.
- 阿部 永(監修)/阿部 永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田政明(著)/財団法人自然環境研究センター(編集制作). 2008. 日本の哺乳類, 改訂2版. -xvi + 206 pp. 東海大学出版会, 秦野. [Abe, H. (ed.); Abe, H., Ishii, N., Itoo, T., Kaneko, Y., Maeda, K., Miura, S. & Yoneda, M. (authors); Japan Wildlife Research Center (compiler). 2008. A Guide to the Mammals of Japan, Revised 2nd ed. -xvi + 206 pp. Tokai University Press, Hadano.]
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- 和田健太・西堀正英・横浜道成. 2010. ミトコンドリアゲノムに基づくニホンジカ(Cervus nippon)の分子系統. 動物遺伝育種研究 38(1): 49-56.
インターネットリソース
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- 日本のレッドデータ検索システム http://jpnrdb.com/index.html
- シカ情報マップ https://shikadoko.jp/
- 愛知県「シカ情報マップ」 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/shinrin-ringyo-c/deer-existence-app.html
- DEER INFO https://deerinfo.pro/
- 一般財団法人 奈良の鹿愛護会 > 学ぶ・体験 > 行動・生態 https://naradeer.com/learning/ecology.html
- SAVE THE DEER IN MIYAJIMA ~宮島の鹿問題を考える~ https://miyajimadeer.blogspot.com/
- 文化遺産オンライン / 文化遺産データベース / 奈良のシカ(ならのしか) https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/162848
- 文化遺産オンライン / 文化遺産データベース / ケラマジカおよびその生息地(けらまじかおよびそのせいそくち) https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/217989
- 環境省. 2005. 子どもパークレンジャー, 平成17年度第2回資料, 平成17年9月3日(土)-4日(日). 人間科学研究所. http://chushikoku.env.go.jp/nature/mat/data/m_4_2/jpr_2.pdf
- 日本哺乳類学会 > ポスター発表 > P-148 広島本土と宮島におけるニホンジカの遺伝的構造の違い https://mammalogy.jp/conf/doc/MSJ2012abstract_p168_p221.pdf
- 東急財団 > 環境 > 学術研究成果リスト > 多摩川上流域に生息するニホンジカの遺伝構造・遺伝的多様性の評価 https://foundation.tokyu.co.jp/environment/archives/a_research/%E5%A4%9A%E6%91%A9%E5%B7%9D%E4%B8%8A%E6%B5%81%E5%9F%9F%E3%81%AB%E7%94%9F%E6%81%AF%E3%81%99%E3%82%8B%E3%83%8B%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AB%E3%81%AE%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%A7%8B%E9%80%A0%E3%83%BB
- 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨(ESJ65 Abstract) > 一般講演(ポスター発表) P1-200 (Poster presentation) > 奈良公園におけるニホンジカのおじぎの機能(*西山若菜, 和田葉子, 和田恵次, 遊佐陽一(奈良女子大学)) https://www.esj.ne.jp/meeting/abst/65/P1-200.html
関連ページ
文献・教科書
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- 高槻成紀. 1991. 草食獣の採食生態―シカを中心に―. 朝日・川道(編), 現代の哺乳類学, pp. 119-144. 朝倉書店, 東京.
- 高槻成紀. 1998a. 哺乳類の生物学5巻, 生態. 144 pp. 東京大学出版会, 東京.
- 高槻成紀. 1998b. 歯から読みとるシカの一生. ix + 143 + 3 pp. 岩波書店, 東京.
- 高槻成紀. 2015. シカ問題を考える, バランスを崩した自然の行方. 214 pp. 山と渓谷社, 東京.
- 高槻成紀. 2006. シカの生態誌. - ix + 480 pp. 東京大学出版会, 東京.
- 高槻成紀・南 正人. 2010. 野生動物への2つの視点, "虫の目"と"鳥の目". 206 pp. 筑摩書房, 東京.
- 田中淳夫. 2018. 鹿と日本人, 野生との共生1000年の知恵. 225 pp. 築地書館, 東京.
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- 前迫ゆり・高槻成紀(編). 2015. シカの脅威と森の未来, シカ柵による植生保全の有効性と限界. -口絵VIII + 245 pp, 文一総合出版, 東京.
- 三浦慎悟. 2008. ワイルドライフ・マネジメント入門, 野生動物とどう向きあうか. vii + 123 + 2 pp. 岩波書店, 東京.
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関連サイト
- 国立感染症研究所 > オズウイルス感染症とは https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/12113-ozv.html
- SAVE THE DEER IN MIYAJIMA ~宮島の鹿問題を考える~ https://miyajimadeer.blogspot.com/
- 宮島でのシカとのつきあい方 https://sites.google.com/view/chubo/宮島について/宮島でのシカとのつきあい方
学会発表
- https://www.mammalogy.jp/conf/doc/msjwcs2010_program_pp35to70.pdf
- https://www.mammalogy.jp/en/meeting/doc/MSJ2012abstract_p168_p221.pdf
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/primate/29/0/29_166_1/_pdf/-char/ja
- https://www.mammalogy.jp/conf/doc/MSJ2014abstract_all.pdf
行政関連
- 広島県 > ecoひろしま~環境情報サイト~ > 宮島地域のシカについて https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/eco/miyajima-shika.html
- https://www.city.hatsukaichi.hiroshima.jp/uploaded/attachment/36536.pdf
- 厚生労働省 >> 健康 > 感染症情報 > 動物由来感染症 > ダニ媒介感染症 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164495.html
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