コケと環境

森を覆うカーペット
左.コケに覆われている森の中の斜面
右.明るいところは草本や樹木の実生が,暗いところにはコケが繁茂している.(徳島県剣山)
最近,森林自体が「緑のダム」として注目を集めています.そのような森林の役割においては,コケ植物も,大変重要です.

たとえば亜高山帯の林の中で,じっと足を止めて周りを見渡してみると,地面のほとんどが分厚いコケのじゅうたんで覆われているのに気がつくとおもいます.イワダレゴケやタチハイゴケ,ホソバミズゴケなどの大型の蘚類がよくそのようなじゅうたんをつくりますが,その厚さは20センチくらいにもなります.コケ植物は,根は張りませんが,吸水力や保水力にすぐれており,とくにこのようなじゅうたんをつくる蘚類は,自分の重さの20倍もの水を蓄えることができます.ある計算によれば,その貯水量は,1ヘクタールあたり50トンにもなるそうです.日本の森林面積は約2500万ヘクタールですが,もし仮に,このうち5分の1がコケに覆われていたとしても,日本中のコケは2億5千万トンもの水を蓄えられることになりますね.

また,裸地などにすぐ侵入する苔類やコケの原糸体は,表土が崩れたり流れたりするのを防ぐ役割もあります.コケは遷移の初期において重要な役割を果たしているのです. 

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自然環境のバロメーター
コケ植物は,単純な体のつくりをしているので,環境に敏感です.また,コケ植物には多くの種類があり,それぞれ限られた環境に生育しています.そのため,どのような種類のコケが生えているかを調べれば,その場所のおおよその環境を知ることができます.

水分条件や水質,土の性質,気候や微環境が,コケの種類を調べることで分かるといった研究は,数多くあって,それをもとに生態学的な研究が行われていたりします.

しかし,特に有名なのは,「銅ゴケ」と呼ばれるものでしょう.コケ植物の中には,強い毒性をもつ銅イオンを多く含む土壌に,特異的に生える種類がいくつかあるのです.「銅ゴケ」が生えるところは,銅の鉱脈があるところであったり,銅鉱山のあとだったり,銅屋根の下だったりするのです.日本で特に有名な「銅ゴケ」は,東京の池上本門寺の銅葺き屋根の軒下ではじめて発見されたホンモンジゴケです.

過去の標本は,その採集地がかつてどのような環境であったかを知る手がかりにもなります.環境の変化が,その土地で採集されたコケの標本を追うことで知ることもできるのです.ミズゴケが何千年と堆積する泥炭地帯などでは,ミズゴケの種類による微環境の変動を分析した例などがあります.

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