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ミヤジマトンボの保護活動に思う
広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実験所
野生保護推進委員 向 井 誠 二
            ミヤジマトンボ(雄)
ミヤジマトンボ密猟者の掲示
密漁は重大な犯罪です・・皆んなの暖かい気持ちで、そっとミヤジマトンボを見守ってあげて下さい。
 平成13年4月より平成23年7月までの10年間, 広島県野生生物保護委員としてミヤジマトンボの保護推進活動をすることとなった.主な目的は、1.ミヤジマトンボの生息地域での個体数の観察 2生息地域での自然環境の保護 3.人為的な乱獲者(愛好家や趣味による捕獲者)の摘発及び指導などを行う。また、年度ごとにその実態を環境省及び広島県並びに旧宮島町教育委員会(現在は,廿日市市教育委員会)に報告することである.

 ミヤジマトンボは,日本でも宮島しか生息しない南方系の蜻蛉で非常に貴重な存在である.宮島でもごく限られた一部の地域でしか生息して居らず,資料によれば中国福建,広東省沿岸部だけに原種が生息する新亜種で,広島県でも特定野生生物種に指定されている.ミヤジマトンボは,体長さ7センチ前後で,羽は透明で,胴体は黄色や白色に黒のシマがある.一見シオカラトンボに似ているが,よく観察するとシオカラトンボより小型で軟弱な飛び方をする所に特徴がある.

 ミヤジマトンボの生息場所は,ヒトモトススキ群落のある後背湿地な場所で,山からの水と海水とが混じり合う泥状の湿地で宮島全島でもごく限られた場所しかない.またミヤジマトンボは,人為的影響や自然環境の影響に左右されながら今日まで来ており,高度成長期には大気汚染や松枯れのための農薬の空中散布などの被害(農薬の混じった山水など含む)に耐え,またゴミ(特に養殖カキ業者のゴミ)や不法投棄による廃船,昆虫愛好家による乱獲などによる他,大型台風による生息場所の環境の崩壊により常に厳しい状況に置かれている.今日まで様々な障害に耐えて生き延びている事を思うと尚更保護していかなくてはと痛感する.

 この数年間を振り返ってみて,年間6〜7回はボートで現地を訪れるが,以前はマニアによる乱獲者も多く,1995年に野生生物種の保護に関する県条例が制定されたが,未だ密猟者は後を絶たない有様である.ミヤジマトンボも一時は安定的推移を保っていたが,2004年9月7日に直撃した台風18号は生息場所にかなり打撃を受けた.特に宮島の南西側の地域では,台風により波と強風により淡水と海水の水路が埋め尽くされてしまいミヤジマトンボの生息には厳しい状況となっている.また,西側の地域では、岩肌が洗われ産卵場所である泥状の場所が砂と土の堆積により表土が20cm前後盛られた上に生育環境の面積が狭められた状態となった。その上,不法投棄された廃船がヒトモトススキ群落に覆い被された上,船舶に残された燃料やオイルの流出が懸念され何とか対策をせなばと思っている.(2005年3月31日:記)

 ミヤジマトンボの減少化 ミヤジマトンボのここ数年間の観察時点での推移は下記表1の通りであるが,1990年以前は,100匹〜200匹(元広大名誉教授 沢野十蔵氏確認)単位で生息していたのがだんだんと減少し現在に至っている.
 これからも,ミヤジマトンボの減少を食い止めるためにも、継続して観察しながら保護推進することが重要だと思われる.
2005年からは,ミヤジマトンボ保護連絡協議会・広島県・環境省や宮島パークボランティアの協力を協力を得ながら,生息場所の保護に務めている.
ミヤジマトンボの保護活動記録
2005年 4月25日 高知県より幼虫7匹放流             北西地区C地域へ
2005年 5月17日 大阪(横田 裕氏)よりの幼虫10匹放流    南西地区B地域へ
2005年 6月 1日  高知県2匹及び大阪より12匹幼虫放流    南西地区B地域へ  
2005年 7月26日 ミヤジマトンボの実態調査
2005年 8月4日  あてのき浦地区の環境整備をした。
2005年 8月12日 ミヤジマトンボの個体数の確認調査(環境省・広島県・宮島町教育委員会・
            宮島自然植物実験所・宮島パークボランティア)
2006年1月23日 ミヤジマトンボ保護管理連絡協議会開催される。 農林庁舎2階 会議室
2006年3月12日〜13日 ミヤジマトンボ生息地看板設置及び生息地整備事業
2006年3月30日 野生生物保護委員会開催 広島県環境保全室
2006年9月17日 台風13号直撃 午後8時〜翌 午前3時まで強風有り
2006年9月29日 台風の被害状況見に行く
2006年10月19日 台風後の環境変化を見に行く 測量とデータとる(松村氏同行)
2006年12月15日 水田先生・広島県・広島工業大学上嶋先生・五洋建設・昆虫館坂本氏総勢7名
           にて3ヶ所の環境状況を調べに行く
2007年2月22日 環境省・宮島パークボランティア・環境保険協会・ミヤジマトンボ保護管理協議会
          委員の総勢23名によるA地域でのトンボ生息地域の清掃及び環境整備を行う。
2007年3月4日と6日(2日間)  2月22日の続きにてB地域及びC地域の生息地域の清掃及び環境
         整備を行う。3月4日23名 参加3月6日21名参加     
2007年6月1日 平成19年度ミヤジマトンボ保護管理連絡協議会8第一回が行われた
2007年6月20日 ミヤジマトンボ生息状況の実施(広島県・環境省・廿日市市・保護管理協議会等) 
2007年12月26日 平成19年度ミヤジマトンボ保護管理連絡協議会(第2回)開催された。
宮島トンボの写真及び台風の被害による生態環境の変化

ミヤジマトンボの個体数の確認状況
2001年から2007年までで当日の確認個体数のみである)


なお,個体数の確認には,平成17年度までは、「日本蜻蛉学会」会員の鍵本文吾氏及び宮島町教育委員会の内山健氏の同行確認を得た.
平成18年度以降は、ミヤジマトンボ保護管理委員会のメンバーによる個体数確認による。

ミヤジマトンボの推移 (単位:匹)
確認年月日 南地区A地域 南西地区B地域 北西地区C地域 合計
H13.7.26 5 18 15 38
H13.8.22 1 3 5 9
H14.7.22 6 8 27 41
H15.7.22 4 15 16 35
H15.8.7 2 2 7 11
H15.8.21 - - 9 9
H16.7.13 1 4 17 22
H16.7.18 - - 12 12
H16.8.10 1 1 10 12
H17.7.16 21 21
H17.7.26 1 11 10 22
H17.8.12 0 5 5 10
H17.8.20 0 1 9 10
H18.6.21 1 1 10 12
H18.7.13 0 4 11 15
H18.7.22 - - 15 13
H18.8.6 - - 13 13
H18.8.11 0 0 4 4
H18.9.6 - - 3 3
H19.5.29 5 2 4 11