竹原/ハチの干潟/魚つき林

魚つき林(魚付林,魚附林)(うおつきりん,うおつきばやし)

森林の周辺海域では,昔から経験的に魚が集まることが知られています.この現象を魚つきとよび,海に面した場所に存在する森林を魚つき林(魚付林,魚附林)とよんでいます.江戸時代から,禁伐や管理を通して状態のよい海岸林や離れ小島の森林植生を保護している地域が日本全国に存在します.森林は海や湖に養分を供給します.この養分を使ってプランクトンが繁殖し,それを餌とする魚介類が増加して生物多様性の高い海になるのです.これに加えて,海に面した陸地に存在する森林は,海の環境に対してさまざまな機能を担っています.例えば,海面に注ぐ直射日光を遮断して木陰をつくって水温を安定させたり,風波を和らげたり,魚介類に隠れる場所や繁殖・産卵の場所を提供したり,土砂の流出と水質汚濁を防止して水を清く保ったり,地下水を供給したりなど多くの機能をもつことが知られています.魚つき林という概念は古くからありましたが,森と海が接して環境が移行する場所は生態系の境界(エコトーン)であり,生物多様性の観点からその機能が再評価されています.また,環境を安定させて持続可能性を保障するという観点でSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の考え方に通じるものがあります.

ハチの干潟は,現在の賀茂川の河口からハチ岩周辺に広がっています.1700年代に賀茂川が瀬替えされた際にハチの干潟も影響を受けたと考えられますが,周辺が陸地化した現在では大変貴重な干潟といえます.また,ハチの干潟の北から北東,現在の竹原市皆実町(皆実新開)から明神の一帯には南島(山)とよばれる地形があります.ここは江戸時代には島として独立しており,横島とよばれていました.竹原は江戸時代からの製塩を背景に発展した地域であり,製塩に必要な薪炭材の供給のためにこの一帯の森林も利用されていたと考えられます.1947(昭和22)年米軍撮影の空中写真をみると,アカマツPinus densiflora Siebold & Zucc.が主体の森林で,禿山に近い場所も確認できます.1960(昭和35)年に塩田が廃止された後の1971(昭和46)年国土地理院撮影の空中写真では,何か所かで樹木や竹が伐採され,耕作地として利用されている部分が広がっています.その後,1996(平成8)年や2018(平成30)年の空中写真を比較すると,一帯で常緑樹林化と竹林の拡大が確認できます.ハチの干潟の北にあたる場所では,この間一貫して森林が存在し,魚つき林として継続して機能していることが考えられます.ハチの干潟の環境を守っていく上で,それに接して存在する森林の存在は今後も重要になってきます.

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