「種とは 魚類図鑑」の版間の差分

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しかし実のところ魚類の場合,「イサキ科 Haemulidae」などの様に成長と共に形態が大きく変化するものや,「ベラ科 Labridae1,2,3,4,5,6」「ブダイ科 Scaridae」に代表されるように顕著な性的二型(sexual dimorphism)が表れるものも多く,単純に形態を比較するだけではその判定は難しい(実際,かつてはコブダイのIPを「カンダイ」という名前で別種として扱っていた).
 
しかし実のところ魚類の場合,「イサキ科 Haemulidae」などの様に成長と共に形態が大きく変化するものや,「ベラ科 Labridae1,2,3,4,5,6」「ブダイ科 Scaridae」に代表されるように顕著な性的二型(sexual dimorphism)が表れるものも多く,単純に形態を比較するだけではその判定は難しい(実際,かつてはコブダイのIPを「カンダイ」という名前で別種として扱っていた).
  
そこで「交配による遺伝子の伝達」,つまり子・孫...と次世代を残せるか,が重要となってくる.もちろん同種であれば,繁殖期に棲息場所を共有する個体同士が交配を行い卵仔稚を産出することになり,逆に交配が行わなければ別種となる(例えば1997年,これまで色彩変異とされてきた2種類の「ササノハベラ」が同所的に棲息しながら生殖隔離が起こっていることが証明され,それぞれアカササノハベラとホシササノハベラという別種に認定された).しかしこれも,地理的に大きく離れた個体群同士を同一種とするための証明としては有効でないことが多く,実際のところ種として決着していないものが多数残されているのが現状である.
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そこで「交配による遺伝子の伝達」,つまり子・孫...と次世代を残せるか,が重要となってくる.もちろん同種であれば,繁殖期に棲息場所を共有する個体同士が交配を行い卵仔稚を産出することになり,逆に交配が行わなければ別種となる(例えば1997年,これまで色彩変異とされてきた2種類の「ササノハベラ」が同所的に棲息しながら生殖隔離が起こっていることが証明され,それぞれ[[アカササノハベラ]]と[[ホシササノハベラ]]という別種に認定された).しかしこれも,地理的に大きく離れた個体群同士を同一種とするための証明としては有効でないことが多く,実際のところ種として決着していないものが多数残されているのが現状である.
  
 
==種の名前(標準和名)==
 
==種の名前(標準和名)==
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例えば「アカウオ」と呼ばれる魚がいる.図鑑を見ると確かに「アカウオ(ハゼ科 Gobiidae)」という魚はいるが,各地の市場で目にする「アカウオ」はこの「アカウオ」でないことがほとんどだろう.そこで各地の方言を調べてみると以下の魚たちが「アカウオ」と呼ばれていることに気が付く.
 
例えば「アカウオ」と呼ばれる魚がいる.図鑑を見ると確かに「アカウオ(ハゼ科 Gobiidae)」という魚はいるが,各地の市場で目にする「アカウオ」はこの「アカウオ」でないことがほとんどだろう.そこで各地の方言を調べてみると以下の魚たちが「アカウオ」と呼ばれていることに気が付く.
  
*アカハタ(ハタ科 Serranidae)
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*[[アカハタ]](ハタ科 Serranidae)
*アカムツ(ホタルジャコ科 Acropomatidae)
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*[[アカムツ]](ホタルジャコ科 Acropomatidae)
 
*アコウダイ(フサカサゴ科 Scorpaenidae)
 
*アコウダイ(フサカサゴ科 Scorpaenidae)
*ウグイ(コイ科 Cyprinidae)
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*[[ウグイ]](コイ科 Cyprinidae)
*ヒメジ(ヒメジ科 Mullidae)
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*[[ヒメジ]](ヒメジ科 Mullidae)
 
*ヤナギメバル(フサカサゴ科 Scorpaenidae)
 
*ヤナギメバル(フサカサゴ科 Scorpaenidae)
  
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==種の名前(学名)==
 
==種の名前(学名)==
  
さて前述の標準和名「アカウオ」だが,残念ながら世界に「アカウオ」という魚を発信するには名称「akauo」では通じない.世界共通の名称が必要となってくる.
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さて前述の標準和名「[[アカウオ]]」だが,残念ながら世界に「アカウオ」という魚を発信するには名称「akauo」では通じない.世界共通の名称が必要となってくる.
  
 
これに関してはスウェーデンの博物学者カール・リンネ(Carolus Linnaeus: 1707-1778)が統一された名称として画期的な二名法を提案しており,これが世界的な支持を受け現在でもいわゆる「学名(scientific name)」として利用されている.
 
これに関してはスウェーデンの博物学者カール・リンネ(Carolus Linnaeus: 1707-1778)が統一された名称として画期的な二名法を提案しており,これが世界的な支持を受け現在でもいわゆる「学名(scientific name)」として利用されている.
  
ここでも「アカウオ」という魚を例にとるが,これには「Ctenotrypauchen microcephalus (Bleeker,1860)」という学名が付けられている.このような学名は「属名+種小名」の2個の単語に加え「命名者+命名年」が列記されており,また「属名+種小名」には現在どの国でも使用されておらず永久に変化することの無い「ラテン語」を用いて表記することが規定されている.ただし亜属・亜種など例外がある場合も多く,また種小名の後ろの「命名者+命名年」を省略することも多い.
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ここでも「[[アカウオ]]」という魚を例にとるが,これには「''Ctenotrypauchen microcephalus'' (Bleeker,1860)」という学名が付けられている.このような学名は「属名+種小名」の2個の単語に加え「命名者+命名年」が列記されており,また「属名+種小名」には現在どの国でも使用されておらず永久に変化することの無い「ラテン語」を用いて表記することが規定されている.ただし亜属・亜種など例外がある場合も多く,また種小名の後ろの「命名者+命名年」を省略することも多い.
  
いずれにせよこの「Ctenotrypauchen microcephalus」という名称により全世界に標準和名「アカウオ」と呼ばれる魚が定義づけられており,以下同様に全ての生物種について学名が与えられ,逆に学名の無い生物種は分類学的に種の認定を受けていない生物として扱われる.
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いずれにせよこの「''Ctenotrypauchen microcephalus''」という名称により全世界に標準和名「[[アカウオ]]」と呼ばれる魚が定義づけられており,以下同様に全ての生物種について学名が与えられ,逆に学名の無い生物種は分類学的に種の認定を受けていない生物として扱われる.
  
 
本サイトでは,まず学名を持つ種,そしてこれらが無い場合少なくとも標準和名が与えられている種のみを扱うこととする.
 
本サイトでは,まず学名を持つ種,そしてこれらが無い場合少なくとも標準和名が与えられている種のみを扱うこととする.

2017年3月30日 (木) 21:36時点における最新版

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種とは(魚類図鑑)

種の分類方法

種(species)とは分類学(taxonomy)上の基本単位であり,類似した形態学的・生態学的特徴(morphological and ecological characteristics)を持つ.ここで言う形態とは一般に成長などによって増減しない外見的特徴を指し,魚類では鰭の棘条数(the number of fin spines and ray)」「側線鱗数(number of scales in lateral line)」などがよく利用される.

しかし実のところ魚類の場合,「イサキ科 Haemulidae」などの様に成長と共に形態が大きく変化するものや,「ベラ科 Labridae1,2,3,4,5,6」「ブダイ科 Scaridae」に代表されるように顕著な性的二型(sexual dimorphism)が表れるものも多く,単純に形態を比較するだけではその判定は難しい(実際,かつてはコブダイのIPを「カンダイ」という名前で別種として扱っていた).

そこで「交配による遺伝子の伝達」,つまり子・孫...と次世代を残せるか,が重要となってくる.もちろん同種であれば,繁殖期に棲息場所を共有する個体同士が交配を行い卵仔稚を産出することになり,逆に交配が行わなければ別種となる(例えば1997年,これまで色彩変異とされてきた2種類の「ササノハベラ」が同所的に棲息しながら生殖隔離が起こっていることが証明され,それぞれアカササノハベラホシササノハベラという別種に認定された).しかしこれも,地理的に大きく離れた個体群同士を同一種とするための証明としては有効でないことが多く,実際のところ種として決着していないものが多数残されているのが現状である.

種の名前(標準和名)

それでも世界中の生物には種ごとにそれぞれ「名前」が付けられている.しかしその名前も国・地方によって統一されていなければ学術的に意味がなく,混乱を招きやすい.

例えば「アカウオ」と呼ばれる魚がいる.図鑑を見ると確かに「アカウオ(ハゼ科 Gobiidae)」という魚はいるが,各地の市場で目にする「アカウオ」はこの「アカウオ」でないことがほとんどだろう.そこで各地の方言を調べてみると以下の魚たちが「アカウオ」と呼ばれていることに気が付く.

  • アカハタ(ハタ科 Serranidae)
  • アカムツ(ホタルジャコ科 Acropomatidae)
  • アコウダイ(フサカサゴ科 Scorpaenidae)
  • ウグイ(コイ科 Cyprinidae)
  • ヒメジ(ヒメジ科 Mullidae)
  • ヤナギメバル(フサカサゴ科 Scorpaenidae)

また近年北部太平洋・大西洋などから漁獲され輸入されているる「アラスカメヌケ」「モトアカウオ」「チヒロアカウオ」(いずれもフサカサゴ科 Scorpaenidae)なども「アカウオ」という商品名で取り引きされている.

これらは各地の文化・流通の中で育てられたれっきとした名称であり,確かにいずれも赤色の体色や婚姻色を呈するため「アカウオ」という名に間違いはないだろう.しかし学術的に「アカウオ」の名前を指すとき,それを読む人間がそれぞれ異なる魚を想像してしまうのであれば,名前としての意味がない.

この混乱を避けるため1905年に「標準和名」の命名法についての議論が初めてなされ,徐々にこの考え方が普及し始める.そして2003年,日本魚類学会標準和名検討委員会が設置,魚類に対する新称の提唱・同種異名の改訂・改称等に関してようやく明確な規定が定められるに至っている.

ちなみに標準和名は,正式にはカタカナで「アカウオ」と表記することが規定されており,決して「あかうお」でも「赤魚」でもない.

種の名前(学名)

さて前述の標準和名「アカウオ」だが,残念ながら世界に「アカウオ」という魚を発信するには名称「akauo」では通じない.世界共通の名称が必要となってくる.

これに関してはスウェーデンの博物学者カール・リンネ(Carolus Linnaeus: 1707-1778)が統一された名称として画期的な二名法を提案しており,これが世界的な支持を受け現在でもいわゆる「学名(scientific name)」として利用されている.

ここでも「アカウオ」という魚を例にとるが,これには「Ctenotrypauchen microcephalus (Bleeker,1860)」という学名が付けられている.このような学名は「属名+種小名」の2個の単語に加え「命名者+命名年」が列記されており,また「属名+種小名」には現在どの国でも使用されておらず永久に変化することの無い「ラテン語」を用いて表記することが規定されている.ただし亜属・亜種など例外がある場合も多く,また種小名の後ろの「命名者+命名年」を省略することも多い.

いずれにせよこの「Ctenotrypauchen microcephalus」という名称により全世界に標準和名「アカウオ」と呼ばれる魚が定義づけられており,以下同様に全ての生物種について学名が与えられ,逆に学名の無い生物種は分類学的に種の認定を受けていない生物として扱われる.

本サイトでは,まず学名を持つ種,そしてこれらが無い場合少なくとも標準和名が与えられている種のみを扱うこととする.

目次

参考文献

  • 中坊徹次(編). 2013. 日本産魚類検索 全種の同定, 3版. xlix + xxxii + xvi + 2428 pp. 東海大学出版会, 秦野.

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