植物観察会/KansatsukaiPageMiniLetter533

ヒコビアミニレター No. 533(2022年03月11日)

 2021年12月4日(土)の第656回植物観察会は,2021年度第23回ヒコビアセミナ-を兼ねて,勉強会として「Zoomミーティング」を用いたオンライン形式で行われた.参加者は29名.天気は雨のち晴れ.13時開場,13時30分からヒコビア会の山口会長の挨拶の後,セミナ-を開始した.発表は4題あり,前半は「広島県に自生する薬用植物と効用」(吉本悟),「海浜植物イソスミレに関する生態学的研究」(黒田有寿茂)について発表があった.10分間の休憩をはさんで,「宮島で行われている緑化事業について―2018年豪雨災害後の現状―」(坪田博美),「国立科学博物館の蘚苔類コレクションと今後の取り組み」(井上侑哉)について発表があった.

(S. Uchida & H. Tsubota 記)

要旨

広島県に自生する薬用植物と効用

吉本悟(薬王堂漢方薬局 薬剤師)
広島県に自生する薬用植物を地域ごとに分けて紹介しようと思います。
① 比婆山から道後山などを含む北東山間部、②石灰岩地域を含む岡山県隣接部、③東広島市を中心にした県中央部、④古生層を含む太田川水系の南西山間部、⑤瀬戸内海に浮かぶ島しょ部など五か所に分け、その地域に自生する植物で薬用に利用されるものや有毒なものを紹介します。
① 北東山間部は中国山地の一部で寒冷を好む植物が多く自生しています。
ウコギ科のトチバニンジンは高麗人参や朝鮮人参と呼ばれる薬用人参の代用薬として江戸時代から用いられてきました。
根茎に強壮効果があるとされてきたナルコユリやアマドコロはエングラー分類法でユリ科と習ってきましたが今はAPG分類法でキジカクシ科(クサスギカズラ科)に割り当てられています。
中国山地に自生するトリカブトにはサンヨウブシとタンナトリカブトの二種があるとされています。全草に有毒成分のアコニチンを含みますが塊根を加熱処理することで減毒し鎮痛や強心の目的で利用されます。
② 岡山県隣接部には特殊な植物が多く自生しています。
帝釈峡などの石灰岩地域に自生するミシマサイコの根は柴胡として多くの漢方処方に配剤されています。
③ 県中央部は盆地や平地が広がり多くの薬用植物が自生しています。
サトイモ科のカラスビャクの塊根は半夏として小青竜湯や小柴胡湯、半夏厚朴湯などの構成生薬として用いられています。
④ 南西山間部は太田川水系により削られた古生層があります。オケラは朮として、リンドウは龍胆として、ヤドリギは桑寄生として、クララは苦参として用いられています。
⑤ 島しょ部には暖かい場所を好む薬用植物が多く自生しています。
ニッケイの仲間の樹皮は桂皮として血行促進をし身体を温める生薬として用いられています。ベトナムや雲南省で自生しているCinnamomum cassiaが最上品とされますが江戸時代には舶来品は貴重で一般の人には高価なために用いられませんでした。暖かい島に自生する近縁種のCinnamomum sieboldii の樹皮や根が風邪薬や鎮痛剤として利用されてきました。シーボルトが江戸参府する時に瀬戸内海の島で見つけて命名したと言われています。
その他、多くの薬用植物がありますので画像を使ってお話ししてゆきます。

海浜植物イソスミレに関する生態学的研究

黒田有寿茂(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所)
 海浜植生は海域-陸域間のエコトーンとして海岸域の生態系機能や生物多様性の維持に重要な役割を果たしている。しかし国内の海浜植生は特に1900年代以降、人工護岸化などにより大きく縮小してきた。残された海浜植生も人為インパクトや外来種の繁茂により衰退しているケースが多く、多くの海浜植物の存続が危惧される状況となっている。発表者は山陰海岸の海浜植生を対象とした植物相調査の後、海浜植物イソスミレViola grayiの域内・域外保全を目的に据え、本種の分布・生育状況、種子発芽特性、実生の成長特性などについて調査を進めてきた。セミナーではこれまでに得られた成果や今後の展望について紹介したい。

宮島で行われている緑化事業について―2018年豪雨災害後の現状―

坪田博美(広島大学大学院統合生命科学研究科附属宮島自然植物実験所)
 2018(平成30)年7月に発生した豪雨により,広島県廿日市市宮島でも土砂災害が発生した.この復旧工事にあたり緑化が実施され,宮島自然植物実験所も緑化事業に協力している.緑化は,植物が成長してのり面などの浸食防止することと,景観の観点から周辺の環境との調和に役立つことを目的として行われる.一方で宮島の場合,世界遺産に登録される以前から文化財保護法や自然公園法などの複数の法律の規制を受けており,その復旧にはさまざまな制約が存在する.今回,地域性種苗を用いた緑化を行ったのでその経過と現状,課題などを報告する.なお,この内容はファンほか(2021)で発表された.

引用文献

国立科学博物館の蘚苔類コレクションと今後の取り組み

井上侑哉(国立科学博物館植物研究部)
 国立科学博物館のハーバリウム(TNS)は1877年を設立年とし,維管束植物・コケ植物・菌類・地衣類・変形菌類・藻類について標本資料を収集し,これらの資料をもとに分類学を中心とする生物多様性にかかわる調査研究や展示・学習支援を行っている.現在TNSには約200万点の標本資料が収蔵されている.本発表ではこのうち蘚苔類コレクションについて概説するとともに,標本資料を活用した今後の取り組みについて説明する.

蘚苔類コレクションの概要
 現在TNSには約24万点(タイプ標本約1400点を含む)の蘚苔類標本が収蔵されている.これらの標本は当館職員により収集・交換等によって国内外から集められたものと,当館に寄贈されたものが中心となっている.国立科学博物館の蘚苔類コレクションの特色は,飯沼慾斎の草木図説のもととなった標本や,日本の蘚類フロラの解明に重要な役割を果たした笹岡久彦によって1900年代初頭に収集された約1万点の標本など歴史的にも価値の高いコレクションを含んでいることである.その他,永野巌,長田武正,斉藤亀三,渡辺良象等の個人コレクションやニューギニア,南米,ヒマラヤなどの地域コレクションが収蔵されている.タイプ標本や個人コレクション,地域コレクションの一部を除いた一般標本はセン類・タイ類・ツノゴケ類の別に学名のアルファベット順で配列され木製の引き出し式キャビネットに収められている.各標本は国立科学博物館の統合データベースへの登録も進められており,国内産で種まで同定された標本を中心に約10万点の標本情報が公開されている.

今後の取り組み
・調査研究による標本資料の収集
総合研究で進められているミャンマーなどのコレクションの充実を図り,各地の生物多様性解明に資する.
・エキシカータ標本の発行と交換
これまでに42集が発行されている(1970–2021).継続して発行を行い,国内外の機関との交換によってコレクションの充実を図る.
・タイプ標本の確認・登録
寄贈標本を中心にタイプ標本に相当する標本が複数存在しており,タイプ・ステータスを確認するとともにタイプ標本としての登録を進め,コレクションの利用価値を高める.
・日本産蘚苔類のDNAバーコード情報の蓄積
日本産蘚苔類のDNAバーコード情報を蓄積し,分子情報を用いた蘚苔類の種同定,遺伝的多様性把握を推進する.


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