植物観察会/KansatsukaiPageMiniLetter429
ヒコビアミニレター No. 429(2014年6月14日)
第553回ヒコビア植物観察会は,2014年6月2日(月)から4日(水)に新潟県佐渡市小田94-2の新潟大学農学部附属フィールド科学教育研究センター佐渡ステーションと新潟大学佐渡演習林を中心に佐渡島内で開催された.参加者10名.今回の観察会では,佐渡の自然とくに生態系の特徴を野外観察にもとづいて理解することをテーマとした.また,同じ島嶼環境である宮島との比較も行うこととした.新潟大学の佐渡ステーションは佐渡島の北部にあたる大佐渡の北部にある.両津港から北回りでも,南回りでもほぼ同じ距離の約54 kmに位置する.この施設は2012(平成24)年に文部科学省の教育関係共同利用拠点に認定され,全国の大学からの実習等を受け入れている.今回,植物観察会が広島大学大学院の演習となっていることから受け入れて頂いた.
6月2日
6月2日.天気は晴れときどきくもり.現地集合の原則に従い,各々思い思いのルートで佐渡島の両津港に16:15に集合.新潟大学の車2台に分乗して佐渡ステーションに向かう.現地周辺には商店がないため,途中のスーパーマーケットで必要品を各自購入.海岸沿いの道路を進み,弾崎経由でステーションに向かった.途中,東側の海岸のところどころで大きなタブノキやシロダモが見られた.大野亀で休憩も兼ね,周辺にあるトビシマカンゾウの群生地を観察.大野亀は標高167 mの一枚岩が海に突き出しており,日本三大巨岩のひとつとされている.昔は周辺で牛が放牧され,トビシマカンゾウが多く残った場所である.現在は放牧されていないが,観光地として維持するため人の手で除草しているとのこと.その後,西海岸を南西に向かう.途中,海岸のそばまで田があり,そこにカモメの類が田に入り何かを捕食する光景を目にした.職員の方のお話ではオタマジャクシを捕食しているのではないかとのこと.小田にあるステーションに18時に到着.施設の利用説明の後,宿泊室に分かれ,すぐに夕食.夕食には地元の海産物が多く,例えば地元でいごねりと呼ばれる海藻から作られた短冊状のものなどがあった.19時から佐渡ゼミが行われた.はじめに坪田が広島を代表して宮島の植物と自然の紹介を行った.その後,新潟大学の崎尾均教授による佐渡の自然環境に関する説明があった.崎尾先生のご専門は水際の森林の更新とそれに関する分野で,佐渡ステーションに着任されて7年目とのこと.まず,佐渡の歴史や現状について説明があった.佐渡は過去に流刑地であったこともあり,文化面では都の影響を大きく受けている.また,京都や奈良の影響を受けた神社仏閣も多く存在する.海産物が豊富で,最近ではトライアスロンなども行われている.佐渡島は平成の大合併で10あった市町村が合併し,現在は島全体で佐渡市になっている.人口は約65000人で,毎年1000人程度減少している.地形としては北にある大佐渡と南の小佐渡,その間に国仲平野が広がる.大佐渡は標高900 m以上の山が存在し,佐渡演習林を含む海抜の高い場所には天然のブナ林やスギ林が存在している.一方,小佐渡は標高600 m程で,おもに人工林やコナラなどの二次林からなる.気候は暖流の影響で夏涼しく冬温かい.夏は海抜300-400 m以上の場所には雲がかかり,冬は強い季節風の影響で積雪もある.積雪は海抜200 m付近までは少ないが,海抜900 m付近では積雪量は3 m程度にもなり,残雪は6月頃まで見られるとのこと.海抜の高い所では1年の半数以上の日で雨や霧が見られ,そのような場所ではスギ天然林が成立する.以前は牛の放牧や,炭焼き,鉱山の採掘など,植生に対する大きな人的影響が存在したが,現在ではその影響がなくなり,それに伴って植生も変化しつつあるとのことであった.地質はグリーンタフとも呼ばれる緑色凝灰岩を主体としており,地滑りを起こしやすく,翌日そのあたりの植生も観察するという説明があった.佐渡島で記録されている植物は1600種程度で,この数は北海道全体の種数に匹敵する.その他,佐渡の森林の特徴として,植物の垂直分布が不明瞭になること,佐渡島はニホンジカやカモシカのような草食動物がいないため草本植生が豊富であること,演習林内では冷温帯落葉広葉樹林で見られるような植物から亜高山帯で見られるような植物まで多くの種が存在すること,大佐渡と小佐渡で分布する植物に違いが見られること,近年佐渡でもナラ枯れが見られること,佐渡島の植物は同じ種でも花の色が異なるものが見られることなどの説明もあった.これらの詳細については,崎尾(2012)などを参照されたい.ゼミの後,佐渡ステーションの共同利用拠点化前後の経過や佐渡の世界遺産登録をめざす活動の現状などのお話も伺った.
6月3日
6月3日.天気は晴れ.7時すぎから朝食の準備を行い,7時30分から朝食.食事前に付近の浜で観察.エゾオオバコやコウボウムギ,クロマツ,ハマゼリなどが見られ,ハマヒルガオやハマダイコン,オニノゲシ,ハマニガナ,ミヤコグサ,ハマボッスが開花していた.コケ植物は少ない.施設周辺には水田が広がり,タネツケバナやハルノノゲシ,オランダミミナグサ,オオバコ,ヤブガラシ,フキ,ドクダミ,マンテマなどが見られ,カタバミとシロツメクサが開花していた.8時半に車2台に分乗して出発.大倉川沿いを登る.途中,エゾイタヤやサワグルミ,ミズナラ,カツラ,オオイタドリ,オオヨモギ,ウリノキ,アカメガシワ,スギ,ヌルデ,ヤブコウジ,オニグルミ,オノエヤナギ,トチノキ,シラキ,ツルアジサイ,カタクリ,ヤマハンノキ,ヤマモミジ,ヒメアオキ,アケビなどが見られた.キクザキイチゲやカタクリは花が終わっていた.時期が良ければフクジュソウも見られるとのこと.海抜250 m付近にある大倉ゲートを通過して演習林に入る.現在演習林となっている場所は,江戸時代に幕府の直轄地であった森林で,新潟大学の林学科設置のため昭和30年に県有林が無償譲渡された経緯をもつ.ゲート付近は渓畔林になっており,サワグルミやトチノキ,オノエヤナギ,ウワミズザクラ,ヒトリシズカ,ハナイカダ,キブシ,ハイイヌガヤ,エゾユズリハ,ヤマボウシ,リョウメンシダなどが見られる.林道沿いにはモミジイチゴやエンレイソウ,ミズヒキ,ヒノキアスナロ,アカマツ,ホオノキ,クリ,エゾアジサイ,クジャクシダなどが見られた.ヤマオダマキとヤマトグサの花が残っており,ホオノキは花の跡が残っていた.さらに車ですすむ.海抜500 m付近からミズナラ林になり,一部ヒノキアスナロ林も見られた.付近ではサワグルミやオニグルミ,オオカメノキ,オノエヤナギ,トチノキ,エゾイタヤ,ミズナラ,リョウブ,ハナイカダ,ノリウツギ,オオカニコウモリ,ズダヤクシュ,ニリンソウなどが見られ,ヤマオダマキやホオノキ,ナナカマド,ウスバサイシン,ユキザサなどが開花していた.ヤマトグサは満開であった.さらに車で進み,海抜600 m付近ではオオイワカガミやオオバクロモジ,ハクサンシャクナゲ,ヤグルマソウ,ウワミズザクラなどが生育.エゾユズリハが開花しており,雄花と雌花を観察.車を降りて20分ほど歩いて,大倉シラバの草地に向かう.道中,白花のオドリコソウがあった.本土側と花の色が異なる一つの例である.草原がある尾根筋を中心に過去に放牧が行われていた.そのような場所は,自然草原から拡大した半自然草地であるため,放牧がほとんど行われていない現在,森林へと戻りつつある.草原やその周辺では牛の不嗜好性木本植物が多く見られ,ヤマトリカブトやハナヒリノキ,ノイバラ,サドアザミ,ナナカマド,アキグミ,コハマナス,ヒメスイバ,ススキ,ガマズミ,ヤマオダマキ,オオウバユリなどが見られた.レンゲツツジやヒロハヘビノボラズが開花していた.車に戻って海抜750 m付近まで移動.スギの植栽試験地が見られる.途中,ブナやイブキジャコウソウ,バイケイソウ(花なし,コバイケイソウの可能性も)などが見られる.シラネアオイとユキザサ,エンレイソウの花が残っていた.途中,一部の谷では残雪が見られた.11時すぎに海抜800 m付近で車を降り,王様の小径でスギの天然林を観察する.観察路では雪圧によりさまざまな形になった天然スギをはじめ,キハダやカタクリ,オオカメノキ,ヒトリシズカ,ジュウモンジシダ,イヌツゲ,ヤグルマソウ,ヒメモチ,ツルリンドウ,ウスノキ,エゾアジサイ,エゾユズリハ,ツルアジサイ,ホツツジ,ツリバナ,アオダモ,コハウチワカエデ,チゴユリなどが見られ,タムシバやオオバクロモジ,オオイワカガミが開花していた.蛸杉の付近で,スギの倒木の上に多くの実生があるのを観察する.ギャップができた場所にヤマブドウやマタタビが見られた.さらに進むと,シナノキやハウチワカエデ,ブナ,リョウブ,ツノハシバミ,ツルシキミ,ヒメモチ,ウワミズザクラ,トチバニンジンなどが見られ,開花したオオイワカガミを皆で撮影.ナナカマドがついた大王杉を経て,林道に出る.昼食の後,13時ころ移動.今度は風衝地を観察.谷が狭まる地形で,風が強くなることから稜線付近で森林がほとんど発達していない.ハクサンシャクナゲが見られ,ウラジロヨウラク(変種レベルでガクウラジロヨウラクとされることもある)がちょうど開花していた.海抜750 m付近の千手杉のそばに小さな池があり,モリアオガエルなどを観察.観察路でハリギリやツタウルシ,ツルウメモドキなども見る.黒姫ゲートを経て,15時半ころ集落に到着.16時頃ステーションに到着.夕方17時半より夕食会.地元のカメノテなどの海産物を堪能するとともに,崎尾先生のケーナ(南米の管楽器)の演奏もあり,楽しい時をすごすことができた.
6月4日
6月4日.天気は晴れのち薄くもり.7時30分から朝食.朝食後,部屋の片付けと荷物の整理.9時にステーションを出発した.入崎で海浜植生を観察.ハマゴウやハマボッス,ヤマブドウ,クロマツ,ハマハタザオ,ハマヒサカキ,ハマツメクサ,キリンソウ,メノマンネングサなどが見られ,トベラやマルバシャリンバイ,ハマダイコン,ハマヒルガオ,カタバミ,ハマナス,イワユリ(スカシユリ)などが満開であった.トベラは花が多く葉が小型で湾曲しており,見慣れた広島のものとやや趣が異なった.岩の上に小型のオニヤブソテツがあり,ヒメオニヤブソテツと思われる.その他,ムラサキツメクサやマンテマ,マツバボタン,コメツブツメクサなどの帰化植物も花が見られた.10時前に車で次の場所へ移動.道路沿いにキリやシロダモ,アカメガシワ,ナツヅタなどが見られる.相川から県道463号線に入る.この線は大佐渡スカイラインとよばれ,秋は紅葉が美しい観光ルートとのこと.佐渡金山の史跡のそばを通過して,スカイラインを登る.途中海抜500 m付近までの間に,ミズナラやヌルデ,アオダモ,イタヤカエデ,フキ,ハリギリ,クリ,コナラなど,冷温帯林の要素や,やや二次林的な要素も見られ,ツルアジサイやシャガ,タニウツギ,ミズキが開花していた.海抜500 mを越えたあたりで停車して,観察.オオクロモジやエゴノキ,クリ,ミツバアケビ,ウリハダカエデ,ガマズミ,ススキ,フキ,イロハモミジ,サルトリイバラ,マツブサ,サルナシ,ハンノキ,オオカメノキ,ナナカマド,ブナ,ホオノキ,ミズナラ,ハナヒリノキ,オオモミジがあり,ナツグミやウツギ,タニウツギ,レンゲツツジ,ヤマウルシが開花であった.再び車で移動.途中,ブナが見られはじめる.海抜650 m付近の道路脇のブナ林が間近に見られる場所で止まる.胸高直径が60 cm程度と10-20 cm程度のブナが混在していた.ブナにしてはやや細く,冬の風や過去に伐採の影響が示唆された.また,広島のブナと比べると葉の質がやや厚く毛が多かった.ここでは,ブナ以外にミズナラやエゾアジサイ,エゾユズリハ,オオバクロモジ,オオカメノキ,ハナヒリノキ,ウリハダカエデ,アカイタヤ,イヌツゲ,ハウチワカエデ,キツネヤナギ,ウワミズザクラ,コシアブラ,ヒメアオキ,シシガシラ,タンナサワフタギ,カタクリなどが見られ,ヒメモチやヤマウルシが開花していた.11時頃,白雲荘(海抜840 m)に到着.[[レンゲツツジやナナカマドが開花.駐車場から金北山(1172 m)が見えるが,一帯は自衛隊のレーダー基地になっている.山頂近くに良い状態のブナ林が点在するが,あらかじめ予約をしておかなければ立ち入りできないとのこと.そのまま防衛省管理道路を下る.途中スキー場があるが,雪が無い時期であったため牛が放牧されていた.道路沿いにナラ枯れが目立つ場所が散在.市街地を経て両津港に向かう.12時に両津港で解散.各々帰途についた.今回は滞在できた時間も短く,ブナ林やシイ林,二次林などが観察できなかったので,また訪れたい.最後に,案内して頂いた崎尾先生と菅先生はじめ,佐渡ステーションのスタッフの方々に深謝します.
引用文献
- 崎尾 均. 2012. 大学演習林からの便り9. 新潟大学, 日本海に浮かぶ佐渡島の演習林. Green Age 2012/05: 39-42.
デジタル自然史博物館 / 広島大学 / 宮島自然植物実験所 / 植物観察会のトップ / 過去のヒコビアミニレター / 古いNews | 植物 にもどる