坪田 2020a 新刊紹介Hikobia
坪田博美. 2020a. 新刊紹介: "道盛正樹(著),道盛正樹・左木山祝一(写真). 町中のコケ基本50種." Hikobia 18(2): 127-128.
道盛正樹(著),道盛正樹・左木山祝一(写真). 町中のコケ基本50種(ミニガイド No. 32). 42頁. (2020). 大阪市立自然史博物館, 大阪. 定価 \500+税(ソフトカバー)
本書は市街地でみられる代表的なコケ植物を紹介したものである.中表紙に「大阪の町中」と記されているように,おもに西日本の町中が対象となる.サイズは縦18.2 cm×横11.4 cmで,携帯して野外で利用しやすいサイズになっている.内容は,「はじめに」,「目次」,「中表紙(扉絵)」,「コケとは?」,「苔類・蘚類・ツノゴケ類の特徴」,「図鑑ページの見方」,「苔類の生活史」,「蘚類の生活史」,「野外でコケを観察してみよう!」,「コケ観察のマナー」,「コケの紹介(各種の解説)」,「コケの標本の作り方」,「大阪市立自然史博物館のコケ標本」,「さらに学びたい人のために」,「参考文献・生物名さくいん」となっている.また,「苔テラリウム」と「マイフィールドを持とう!」という2つのコラムが含まれる.「コケの紹介(各種の解説)」では,代表的な種について写真を中心に半ページほどを使って解説されている.頁によっては1つの種の中で複数の関連種の解説があるが,初心者に配慮したものであろう.本書で写真を担当されている左山氏はHikobia 18(1)の78頁で紹介のあった「コケの国の不思議図鑑-ミクロの写真で楽しむ-」の著者であり,分かりやすい写真が並んでいる.また,他の類書であまり表記がない外来種の表記もある.解説の前後では,コケ植物の特徴から観察・同定の方法などの基本から,標本の作り方などの発展的な内容まで簡潔にまとめられており,初心者にとって理解しやすい内容になっている.また,類似他書であまりない内容であるが,スマホを使った観察や記録についても触れられている.表表紙・裏表紙ともコケの写真が並んでおり,本文中で表記を見つけることができなかったが,一枚ずつ確認したところ各種の解説の項で取り上げられた種の順番に並んでいた.本文中にあるが「生物名さくいん」には含まれていない種もあるため,これほどコンパクトな本にもかかわらず90種を超えるコケに触れられているのは驚きである.今後改定される予定があれば,採集の際に気をつける必要がある規制や法律などに関する内容にも触れて頂ければありがたい.町中を対象としているが,普及・啓発のためにはそのあたりのマナーも周知頂きたいためである.学名はやや保守的なものが使われているが,科の方はある程度新しいものを反映している.これは,初心者向けの本書からステップアップして利用する既刊の図鑑や書籍などとの整合性を考えると妥当なものといえる.全体としてみると,本書は写真が多用され初心者にも分かりやすい内容となっており,入門書としてお薦めできる書籍である.なお入手希望の方は大阪市立自然史博物館友の会のWebサイト(https://omnh-shop.ocnk.net/)にアクセス頂ければ入手可能である.