「モロコシソウ」の版間の差分

提供: 広島大学デジタル博物館
ナビゲーションに移動検索に移動
(2人の利用者による、間の18版が非表示)
1行目: 1行目:
 +
<span style="font-size:10">[http://www.hiroshima-u.ac.jp/index-j.html 広島大学] > [http://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~museum/ デジタル自然史博物館] > [http://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~museum/plant/ 植物] > [[郷土の植物|郷土の植物]] > [[郷土の植物/維管束植物|維管束植物]] > [[モロコシソウ]] | [[広島県の植物図鑑]] / [[広島県植物誌/和名順/ブロック|和名順]]</span>
 +
 +
[[ファイル:19990817lysimachiasikokiana.jpg|200px|thumb|right|モロコシソウ(広島県廿日市市宮島町)]]
 +
 
= モロコシソウ ''Lysimachia'' ''sikokiana'' Miq.=
 
= モロコシソウ ''Lysimachia'' ''sikokiana'' Miq.=
  
サクラソウ科 Primulaceae
+
== シノニム ==
 
+
=== その他 ===
オカトラノオ属 ''Lysimachia''
 
  
 +
== 分類 ==
 +
種子植物門 Spermatophyta
 +
> 被子植物亜門 Angiospermae
 +
> 双子葉植物綱 Dicotyledoneae
 +
> [[サクラソウ科|サクラソウ科  Primulaceae]]
 +
> [[オカトラノオ属|オカトラノオ属 ''Lysimachia'']]
  
 
== 解説==
 
== 解説==
<!--この植物の解説・写真等をここに記入します -->
+
* 海岸に近い場所の林内に生育する多年生草本.
<!--=DESCRIPTION ここから (DO NOT REMOVE THIS LINE この行を消さないでください) -->
+
* 黄色の花を下向きにつけ,全体にやや紫色を帯びる.
 +
* 茎は開花する時期には直立するが,花期後の観察では果実が成熟する時期に倒臥する傾向がある.
 +
* 山崎(1981)およびIwatsuki et al.(1993)の記載では30-80 cmという草丈が示されているが,広島県産のものは高さ20-40(-50) cmでやや小型であり,葉がやや幅の広い卵形である.
 +
* 広島県内の産地では(6-)8-10月に開花.3月頃球形で長い花柄の先に果実をつける.
 +
* 果実は成熟とともに灰白色に変わり,二裂してその黒い種子を散布する.
 +
* 花柄は2.5-4 cmで,果実が灰白色となる形質など他の形質は,山崎(1981)およびIwatsuki et al.(1993)の記載と一致.
 +
* 広島県版レッドデータブック(広島県 1995)では,絶滅危惧種(endangered species)として扱われている.
 +
* 最近では,向井ほか(1999)で調査が行われている.
  
林内に生育する多年生草本.黄色の花を下向きにつけ,全体にやや紫色を帯びる.茎は開花する時期には直立するが,花期後の観察では果実が成熟する時期に倒臥する傾向がある.佐竹ほか(1981)およびIwatsuki et al. (1993)の記載では30-80 cmという草丈が示されているが,広島県産のものは高さ20-40(-50)cmでやや小型であり,葉がやや幅の広い卵形である.
+
* 常緑の多年生草本.
 +
* 植物体は一般的な記載では高さ30–80 cmとされるが,宮島産の個体は高さ20–40(–50) cmとやや小型である.
 +
* 葉はやや幅の広い卵形.
 +
* 花期は6月下旬–8月で,上部の葉腋ごとに1花をつける.
 +
* 花冠は,黄色で5裂し,下向きに開く.
 +
* 蒴果は灰白色.
 +
* 日本国内では関東地方以西の暖地に分布するが,瀬戸内海沿岸では稀(Horikawa,1976).
 +
* 広島県では宮島だけが産地として報告されていたが1980年代以降,1999年まで生育が確認されていなかった(加藤,1939;関ほか,1975;向井ほか,1999).
 +
* 2003年度版広島県RDBでは絶滅危惧種(VU)に指定されている(広島県版レッドデータブック見直し検討会,2004).
 +
* 本種は,乾燥すると芳香を放つため,沖縄ではかつて着物の香料として袂に入れて利用されていたとされる.
 +
* 宮島島内の生育状況から,林冠ギャップのような自然攪乱が生じた場所にホウロクイチゴやハスノハカズラと混生した状態で生育していると考えられる(向井ほか,1999).また,1999年に宮島での生育が再確認された後,宮島自然植物実験所が定期的に宮島島内の各所も含めた生育地の調査を行っている.2007年には,包ヶ浦でも1個体生育していたが,その後の追跡調査では生育が確認されていない.また,1999年に生育が確認された場所で2010年7月に行った最新の調査結果では,ニホンジカによる食害は認められなかったものの,約50個体の生育が確認されるにとどまり,1999年当時と比較して個体数が減少していた.今回開花していない若い株の割合が高く,また生育地が攪乱跡地を中心とした不安定な環境であるため,減少傾向が続いた場合の対策を行うなどの保護の観点から今後継続調査が必要である.
 +
*[[平原ほか_2010|平原ほか(2010)]]により2010年時点での現状が報告された.
 +
*[[坪田・池田・井上・内田・向井_2015|坪田ほか(2015)]]により2015年8月時点での現状が報告された.
  
県内の産地では8-10月に開花.3月頃球形で長い花柄の先に果実をつける.果実は成熟とともに灰白色に変わり,二裂してその黒い種子を散布する.花柄は2.5-4 cmで,果実が灰白色となる形質など他の形質は,佐竹ほか(1981)およびIwatsuki et al. (1993)の記載と一致.
+
=== 花期 ===
 +
* 広島県内の産地では,6-10月に開花.
  
広島県版レッドデータブック(広島県 1995)では,絶滅危惧種(endangered species)として扱われている.最近では,向井ほか(1999)で調査が行われている.
+
== 分布・産地・天然記念物 ==
 +
=== 分布 ===
 +
* 日本国内では関東地方以西の暖地に分布している(Horikawa 1976, 山崎 1981, Iwatsuki et al. 1993).
 +
* 広島県では宮島にのみ分布している.本種の北限に近い.
  
<!--=END ここまで (DO NOT REMOVE THIS LINE この行を消さないでください) -->
+
=== 産地 ===
 +
=== 天然記念物 ===
  
== 花期==
+
== 標本 ==
県内の産地では8-10月に開花.
+
* 廿日市市宮島(HIRO-MY 29063, yy-4398)
  
[[ファイル:19990817lysimachiasikokiana.jpg]]
+
== 慣用名・英名・広島県方言 ==
 +
=== 慣用名 ===
 +
* ヤマクネンボ
 +
**乾燥すると芳⾹を放ち,この⾹りが柑橘類の⼀種であるクネンボ(''Citrus reticulata'',九年⺟)に似ているということから,山に生育するの意味
  
== 分布==
+
=== 英名 ===
日本国内では関東地方以西の暖地に分布している(Horikawa 1976, 佐竹ほか 1981, Iwatsuki et al. 1993).広島県は本種の北限に近い.
+
=== 広島県方言 ===
 
 
== 慣用名==
 
*ヤマクネンボ
 
  
 
== 備考==
 
== 備考==
* 広島県RDBカテゴリ: 絶滅危惧Ⅱ類(VU)
 
 
* 環境庁コード: 42930
 
* 環境庁コード: 42930
 
* 県RDB
 
* 県RDB
 +
** 2003年度版広島県RDB([[広島県版レッドデータブック見直し検討会_2004|広島県版レッドデータブック見直し検討会 2004]])カテゴリ: 絶滅危惧II類(VU)
 +
** 2011年度版広島県RDB([[レッドデータブックひろしま改訂検討委員会_2012|レッドデータブックひろしま改訂検討委員会 2012]])カテゴリ: 絶滅危惧I類(CR+EN)
  
== 文献(出典)==
+
==文献(出典)==
# 広島大学理学部附属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会(編).  1997.  広島県植物誌.  Pp. 832.  中国新聞社, 広島.
+
* 加藤(1939),関ほか(1975),Horikawa,Y.(1976),土井(1983),環境庁(1988),広島県(1995),広島大学理学部附属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会(1997),向井ほか(1999),広島県版レッドデータブック見直し検討会(2004),[[平原ほか_2011|平原ほか(2011)]]
# 広島県.  1995.  広島県の絶滅のおそれのある野生生物.  437 pp.  広島県環境保健協会, 広島.
+
 
# Horikawa, Y.  1976.  Atllas of the Japanese Flora II.  Pp. 501-862.  Gakken, Tokyo.
+
==関連ページ==
# Iwatsuki, K., Yamazaki, T., Bofford, D. E. and & Ohba, H.  1993.  Flora of Japan. Volume IIIa.  482 pp.  Kodansha, Tokyo.
+
*[[宮島/社会貢献/モロコシソウの域外保全活動|広島県宮島のモロコシソウの保全活動]]
# 向井誠二・坪田博美・中原美保・関太郎・豊原源太郎・出口博則.  1999.  広島県におけるモロコシソウ(''Lysimachia sikokiana'' Miq.)の現状とその保護について.  Hikobia 13: 31-34.
+
 
# 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・亘理俊次・富成忠夫1981日本の野生植物 草本 III259 pp平凡社, 東京.
+
== 引用文献 ==
 +
*[[広島県_1995|広島県.  1995.  広島県の絶滅のおそれのある野生生物.  437 pp.  広島県環境保健協会, 広島.]]
 +
*Horikawa, Y.  1976.  Atllas of the Japanese Flora II.  pp. 501-862.  Gakken, Tokyo.
 +
*Iwatsuki, K., Yamazaki, T., Bofford, D. E. & Ohba, H.  1993.  Flora of Japan. Volume IIIa.  482 pp.  Kodansha, Tokyo.
 +
*[[向井誠二・坪田博美・中原美保・関太郎・豊原源太郎・出口博則_1999|向井誠二・坪田博美・中原美保・関太郎・豊原源太郎・出口博則.  1999.  広島県におけるモロコシソウ(''Lysimachia sikokiana'' Miq.)の現状とその保護について.  Hikobia 13: 31-34.[Mukai, S., Tsubota, H., Nakahara, M., Seki, T., Toyohara, G. & Deguchi, H.  1999.  Habitat of ''Lysimachia sikokiana'' Miq (Primulaceae) in Hiroshima Prefecture, Western Japan.  Hikobia 13: 31-34.]]]
 +
*[[坪田・池田・井上・内田・向井_2015|坪田博美・池田誠慈・井上侑哉・内田慎治・向井誠二2015広島県のモロコシソウ''Lysimachia sikokiana'' Miq.の現状についてHikobia 17(1): 81-88. [Tsubota, H., Ikeda, S., Inoue, Y., Uchida, S. & Mukai, S.  2015.  Current status of ''Lysimachia sikokiana'' Miq. (Primulaceae) in Hiroshima Prefecture, SW JapanHikobia 17(1): 81-88.]]]
 +
*山崎 敬.1981. サクラソウ科.佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・亘理俊次・富成忠夫編, 日本の野生植物 草本III.pp. 16-25. 平凡社,東京.
  
 
----
 
----
 +
[http://www.hiroshima-u.ac.jp/index-j.html 広島大学] / [http://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~museum/ デジタル自然史博物館] / [http://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~museum/plant/ 植物] / [[郷土の植物|郷土の植物]] / [[郷土の植物/維管束植物|維管束植物]] | [[広島県の植物図鑑]] / [[広島県植物誌/和名順/ブロック|和名順]] にもどる
 +
 +
[[Category:広島県の植物]]
 +
[[Category:L]]
 +
[[Category:モ]]
 +
[[Category:被子植物]]
 +
[[Category:サクラソウ科]]

2018年6月24日 (日) 11:15時点における版

広島大学 > デジタル自然史博物館 > 植物 > 郷土の植物 > 維管束植物 > モロコシソウ | 広島県の植物図鑑 / 和名順

モロコシソウ(広島県廿日市市宮島町)

モロコシソウ Lysimachia sikokiana Miq.

シノニム

その他

分類

種子植物門 Spermatophyta > 被子植物亜門 Angiospermae > 双子葉植物綱 Dicotyledoneae > サクラソウ科 Primulaceae > オカトラノオ属 Lysimachia

解説

  • 海岸に近い場所の林内に生育する多年生草本.
  • 黄色の花を下向きにつけ,全体にやや紫色を帯びる.
  • 茎は開花する時期には直立するが,花期後の観察では果実が成熟する時期に倒臥する傾向がある.
  • 山崎(1981)およびIwatsuki et al.(1993)の記載では30-80 cmという草丈が示されているが,広島県産のものは高さ20-40(-50) cmでやや小型であり,葉がやや幅の広い卵形である.
  • 広島県内の産地では(6-)8-10月に開花.3月頃球形で長い花柄の先に果実をつける.
  • 果実は成熟とともに灰白色に変わり,二裂してその黒い種子を散布する.
  • 花柄は2.5-4 cmで,果実が灰白色となる形質など他の形質は,山崎(1981)およびIwatsuki et al.(1993)の記載と一致.
  • 広島県版レッドデータブック(広島県 1995)では,絶滅危惧種(endangered species)として扱われている.
  • 最近では,向井ほか(1999)で調査が行われている.
  • 常緑の多年生草本.
  • 植物体は一般的な記載では高さ30–80 cmとされるが,宮島産の個体は高さ20–40(–50) cmとやや小型である.
  • 葉はやや幅の広い卵形.
  • 花期は6月下旬–8月で,上部の葉腋ごとに1花をつける.
  • 花冠は,黄色で5裂し,下向きに開く.
  • 蒴果は灰白色.
  • 日本国内では関東地方以西の暖地に分布するが,瀬戸内海沿岸では稀(Horikawa,1976).
  • 広島県では宮島だけが産地として報告されていたが1980年代以降,1999年まで生育が確認されていなかった(加藤,1939;関ほか,1975;向井ほか,1999).
  • 2003年度版広島県RDBでは絶滅危惧種(VU)に指定されている(広島県版レッドデータブック見直し検討会,2004).
  • 本種は,乾燥すると芳香を放つため,沖縄ではかつて着物の香料として袂に入れて利用されていたとされる.
  • 宮島島内の生育状況から,林冠ギャップのような自然攪乱が生じた場所にホウロクイチゴやハスノハカズラと混生した状態で生育していると考えられる(向井ほか,1999).また,1999年に宮島での生育が再確認された後,宮島自然植物実験所が定期的に宮島島内の各所も含めた生育地の調査を行っている.2007年には,包ヶ浦でも1個体生育していたが,その後の追跡調査では生育が確認されていない.また,1999年に生育が確認された場所で2010年7月に行った最新の調査結果では,ニホンジカによる食害は認められなかったものの,約50個体の生育が確認されるにとどまり,1999年当時と比較して個体数が減少していた.今回開花していない若い株の割合が高く,また生育地が攪乱跡地を中心とした不安定な環境であるため,減少傾向が続いた場合の対策を行うなどの保護の観点から今後継続調査が必要である.
  • 平原ほか(2010)により2010年時点での現状が報告された.
  • 坪田ほか(2015)により2015年8月時点での現状が報告された.

花期

  • 広島県内の産地では,6-10月に開花.

分布・産地・天然記念物

分布

  • 日本国内では関東地方以西の暖地に分布している(Horikawa 1976, 山崎 1981, Iwatsuki et al. 1993).
  • 広島県では宮島にのみ分布している.本種の北限に近い.

産地

天然記念物

標本

  • 廿日市市宮島(HIRO-MY 29063, yy-4398)

慣用名・英名・広島県方言

慣用名

  • ヤマクネンボ
    • 乾燥すると芳⾹を放ち,この⾹りが柑橘類の⼀種であるクネンボ(Citrus reticulata,九年⺟)に似ているということから,山に生育するの意味

英名

広島県方言

備考

文献(出典)

  • 加藤(1939),関ほか(1975),Horikawa,Y.(1976),土井(1983),環境庁(1988),広島県(1995),広島大学理学部附属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会(1997),向井ほか(1999),広島県版レッドデータブック見直し検討会(2004),平原ほか(2011)

関連ページ

引用文献


広島大学 / デジタル自然史博物館 / 植物 / 郷土の植物 / 維管束植物 | 広島県の植物図鑑 / 和名順 にもどる