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| ===ヤッコソウを訪ねて=== | | ===ヤッコソウを訪ねて=== |
| 関太郎<br> | | 関太郎<br> |
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| + | NHK文化センター広島教室の「野山の植物探訪」で、2020年11月19~20日に高知県室戸市へ、ヤッコソウの観察に行った。ヤッコソウ[Mitrastemon yamamotoi Makino]は明治40年(1907)に高知県幡多郡足摺岬に近い加久見で、山本一氏[高知師範学校教諭・愛媛県出身]によって発見された。初め、キノコと思われたので、ちょうど高知県に来県中の菌類専門家である草野俊介博士に渡された。草野博士は高等植物であると同定し、牧野富太郎博士に手渡した。牧野博士により新属新種として発表された。雄しべがカトリックの司教が被る僧帽状の内面にあり、ひっぱると外れる特徴がある。属名はMitra(僧帽状の)+stemon(雄しべ)と名付けられ、種小名は発見者の山本氏を記念している。<br> |
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| + | 今回訪れたのは、室戸岬に近い金剛頂寺(こんごうちょうじ)四国八十八か所第26番と室戸岬灯台の近くにある最御崎寺(ほつみさきじ)第24番である。原始林というほどではないが、よく保存されたシイ林のシイの大木の根に寄生している。ヤッコソウは、よく、ツチトリモチ(Balanophora japonica Makino)と比較されるが、ツチトリモチは多数の花が集合した花穂であり、ヤッコソウは1個の花である。ヤッコソウの植物体は細い線状で、シイノキの根の中を這っている。一方、ツチトリモチは宿主(クロキ属)と組織がキメラ状に融合した塊を形成し、そこから植物体が出て来る。牧野博士はヤッコソウ科[Mitrastemonaceae]を提唱したが、賛同する人が少なく、形態からラフレシア科(Rafflesiaceae)に置かれていた。近年の分子系統解析では、所属不明という説も出たが、ラフレシア科とは異なり、ヤッコソウ科が認められた。Rose et al(2018)はヤッコソウ科がツツジ目(Ericales)のサガリバナ科(Lecythidiaceae)と姉妹関係にあるという説を出し、注目されている。<br> |
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| + | ヤッコソウは、日本で発見されてから、台湾・ニューギニア・マレーシアなどでも発見され、別種として数種が報告されたが、近年、ヤッコソウにまとめられた。1947年にメキシコで日系二世の植物学者Eiji Matsuda博士によりMitrastemon matsudaeが発見された。現在では、ヤッコソウ科は1属2種である。<br> |
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| + | ヤッコソウの苞[花の下にあり、葉のように見える]の間には蜜が溜まっている。指で舐めても、かなり甘い。今回、尿糖試験紙を持参して測定したところ、もっとも濃度の高いところより、さらに濃い色になった。この反応は還元糖を示すので、ブドウ糖か果糖かは判別できない。Wikipediaによれば、昼間は社会性のハチ[多分ミツバチ]、夜間はコオロギやゴキブリが訪れて花粉を運ぶという。奄美大島の方言では、ヤッコソウを「はなしいの乳」といい、「はなしい」とはメジロであるという。小鳥も花粉を運ぶであろうか。<br> |
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| + | ヤッコソウの分布図は発表されていない。徳島・高知・宮崎・熊本・鹿児島・沖縄県に知られている。また、環境省の絶滅危惧種にも指定されていない。高知県では県の天然記念物に指定されている。<br> |
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| + | ヤッコソウ科は日本で発見された唯一の科であり、世界的に見ても興味深い植物である。<br> |
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| ===参考=== | | ===参考=== |