植物観察会/KansatsukaiPageMiniLetter511

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ヒコビアミニレター No. 511(2020年5月26日)

 2019年1月20日に行われた第617回ヒコビア植物観察会で,集合場所になった呉市安浦町の旧野呂東小学校跡にトチュウが植栽されていて,吉本さんから漢方薬としての説明があった.その年の春に花を観察したいと思っていたが,開花時期を逸してしまった.今年,4月18日に,ちょうど満開の花を観察することができたので紹介したい.  

 トチュウ(杜仲,Eucommia ulmoides Oliver)はトチュウ科トチュウ属に属し1科1属1種である.クロンキスト体系ではトチュウ目(Eucommiales)に置かれていたが,APG分類体系IIではガリア目(Garryales)に置かれている.中国大陸南部の特産であるが,化石は中央ヨーロッパや北米で見つかっており,6千万年前の第三紀には北半球に広く分布していたと思われる.ニレ科に近縁といわれるが,花は特異で似たものがない.漢方薬として古くから著名であるが,日本への生植物の渡来は,比較的新しく,大正7年といわれている.落葉高木で,大きくなると20 mに達するといわれるが,旧野呂東小学校のものは約5 mで,4本ある.雌雄異株で,葉の展開と同時に開花する.花被[花弁や萼片]がなく,雄花(図A)は雄しべだけ,雌花(図B)は小さい苞をともなった雌しべ[子房]だけである.子房は1室で,柱頭は2個である.トチュウの植物体にはグッタペルカが含まれ,葉や茎を切ると白い粘性のあるゴム状物質(図C)が出てくる.これは天然ゴムと同様にイソプレンの重合体であるが,トランス型で天然ゴムはシス型である.グッタペルカは天然ゴムより硬いが,弾性は低い.歯科で充填物として用いられている.真のグッタペルカはグッタペルカノキ(アカテツ科)から採取される.トチュウでは含有量が少ないので実用性はない.

(T. Seki 記)
図A.雄花(広島県呉市安浦町; 撮影: 関太郎, Apr. 21, 2020)
図B.雌花(広島県呉市安浦町; 撮影: 関太郎, Apr. 21, 2020)
図C.葉から出る白い粘性のあるゴム状物質(広島県呉市安浦町; 撮影: 関太郎, Apr. 21, 2020)

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