植物観察会/KansatsukaiPageMiniLetter464

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ヒコビアミニレター No. 464(2016年12月26日)

 2016年12月18日の第588回植物観察会は呉市安浦町亀山八幡神社・日之浦・グリーンピアせとうちで行われ,好天にも恵まれて38名の参加者があった.バスが予定より早く到着したので,亀山八幡下の水田で植物を観察した.ハキダメギクコゴメギクが並んで生えていた.10時に亀山八幡駐車場に集合.宮本通幸宮司より神社の歴史についてご説明があり,一同お祓いを受けた.この社叢は広島県緑地環境保全地域(平成元年指定)で,コジイ(ツブラジイ)を主体にした常緑広葉樹林.注目すべき種はイチイガシコバンモチカンザブロウノキヒメユズリハなど,県内でも沿岸部の温暖な地域に分布が限られる種がある.イチイガシは巨木が数本あり,県内では確実な自生は見つかっておらず,古く植栽されたものかもしれない.垰田宏さんから,イチイガシの材は硬く,車軸など回転する部分に使用されること,ドングリは渋みが少ないこと,また樹皮に特徴的な渦巻き模様があることなど説明があった.ツガがあるが,植栽されたものであろう.ツクバネガシの大きな木が1本あった.コウヨウザン(植栽)について,垰田さんから,中国では杉という漢字はこの木を指し,日本固有種のスギは,中国では柳杉とよばれていること,江戸時代に本種が渡来した時,日本では広葉杉(コウヨウザン)と名づけたことなどが説明された.林床にアリドウシセンリョウがあるが,センリョウは逸出の可能性が高い.

 続いて日之浦の水田横の小流でカワツルモ(ヒルムシロ科)[環境省準絶滅危惧(NT),広島県絶滅危惧I類(CR+EN)]を観察する.ちょうど,果実があって,特徴的な捻じれた果柄も観察できた.日之浦のカワツルモは,1987年に関によって発見され,当時は水路に大量に生育していた.しかし,1990年には全部なくなった.多分,高潮により塩分濃度の高い海水が浸入したためであろう.その後,復活したが,生育量は少ない.地元では説明板を立て保護につとめている.水田にニシノオオアカウキクサ(松村雅文さん同定)があった.従来,「オオアカウキクサ大和型」とされていたもので,帰化種の可能性がある.

 グリーンピアせとうちの芝生で昼食.長く,きつい木製の階段を登り,海抜145mの山頂に到着.天候がよく,瀬戸内海の島々が美しい.海抜90mあたりから,ウンヌケモドキ(イネ科)が認められた.『広島県植物誌』(1997, p.513)で,「グリーンピア安浦」からカリヤスモドキと報告したのは,関の誤同定で,ウンヌケモドキである.本種は環境省絶滅危惧II類(VU)に指定されている.尾根に点々と見られ,部分的には群生しているところもあった.急な階段を下り,小日之浦の入江に着く.久藤広志先生によると,ここにカワツルモがあったとのことで,捜したが見つからなかった.入江に沿ってミカワザサがあり,さらに登った車道沿いにイナコスズ(両種とも久藤先生同定)があった.両種はスズササ属(Neosasamorpha)に属し,瀬戸内海沿岸から島嶼部に点在するめずらしいササである.

 15時30分にグリーンピアせとうち玄関前に帰着.豊原源太郎先生から尾根のアカマツ林について説明があり,アセビソヨゴを欠く,アカマツ-アラカシ群集ネズ亜群集に属するとのことであった.「はげ山を久しぶりに見た」との豊原先生の感想が印象深かった.

(T. Seki 記)

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