広島県の地形・地質・気候

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広島県の地形・地質・気候広島大学理学部附属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会 1997

地形

広島県は中国地方のやや西よりにあって,中国山地の瀬戸内側の斜面,いわゆる山陽地方に位置する.西端は東経132度2分30秒の佐伯郡吉和村中津谷(なかつや)の上流(1:50,000地形図「三段峡」),東端は133度28分30秒の福山市宇治島(「魚島」)(海面の境界はもう少し東になる),南端は北緯34度1分50秒の安芸郡倉橋町横島(「柱島」)(海面の境界はもっと南になる),北端は35度6分10秒の比婆郡高野町毛無山の東稜(「頓原」)で,東西130 km,南北118 kmにわたる.最高海抜地点は山県郡戸河内町の恐羅漢山1346.4m(「三段峡」)である.瀬戸内海には,広島県に所属する大小138の島々がある.広島県の面積は8,474.39 km2(全国10位),地形別面積比は,山地75%,丘陵19%,台地1%,低地5%である.人口は2,881,707人(全国12位),人口密度340人/km2(17位),市町村数13市67町6村である(教育社1988,広島県民手帳1997).地形的に山地が75%に達しているにもかかわらず,人口密度が高いことは,山間部にも人々が多く居住していることを示している.これは,広島県の山地は起伏が緩やかで,高原状であることに起因しているといえよう.

広島県の地形の特徴は,高位・中位・低位の3段に分けられる侵食平坦面にある.侵食平坦面とは,長い年月にわたる河川の浸食作用によって地表が川床近くまで削られてできた緩やかな起伏の地形である.中国地方では,土地の上昇によって3段の浸食平坦面ができた.高位面は海抜1000~1200 mで,県東部では道後山,比婆山など,県西部では恐羅漢山,十方山などの山頂付近に残っている.その形成は第三期中新世以前と考えられている.

中国山地の南側と北側には,海抜400~700 mの高原が広がり,山陰側には石見高原,山陽側には吉備高原,西側には周防高原がある.これらが中位面で,一括して吉備高原面といわれる.その生成は第三期中新世末から鮮新世と推定されている.この吉備高原面より一段階低い海抜300~450 mの世羅台地があり,これも中位面に含まれる.

低位面は瀬戸内海沿岸の海抜250 m以下に見られ,瀬戸内面とも呼ばれる.県東部と西部では,低位面の様子が異なり,東部では世羅台地の南縁の丘陵にあたり,尾道市付近の丘陵地がそれにあたる.西部では広島湾の沿岸部の山麓の緩やかな斜面となっている(藤原1982).

河川は中国山地に源を発する小瀬川,太田川,可愛川(えのかわ),西城川,東城川などは流路が長く水量も豊富であるが,吉備高原面から発する芦田川,沼田川(ぬたがわ)などは流路が短く水量も少ない.江の川水系(上下川),高梁川水系(東城川)と芦田川水系の分水界は,吉備高原面から世羅台地で複雑に入り交じっている.

瀬戸内海は,約8000年前,第四紀洪積世の終わり頃に瀬戸内盆地が沈下し,後氷期の海面上昇とあいまって形成されたといわれ,沈下の程度によって島嶼となったり,海面になったりした.海面上昇が最大に達したのは,約5000年前の縄文時代前期で,海面は現在よりも6 mも高く,広島湾では太田川の上流約20 kmまで海岸線であったと推定されている.その後,海面はしだいに低下し,約2500年前の縄文時代晩期に,現在の海岸線に落ち着いた(田中1987).

地質

広島県の地質は,地質構造上,西南日本内帯に属し,古生代,中生代,新生代の地層や岩石が分布するが,とくに注目されるのは,中生代白亜紀の流紋岩類と花崗岩類が広い面積を占めていることである.古生代の地層は県東部によく発達するが,県中部及び西部にも断続的にあらわれている.県東部の帝釈峡では石灰岩が卓越し,粘板岩やチャートも分布する.古生代の火成岩としては,橄欖岩(かんらんがん)や蛇紋岩が県東部の一部に見られる.中生代の地層としては,白亜紀初期の吉舎(きさ)安山岩が県中部から東部に分布し,白亜紀後期の高田流紋岩が県全域に広がる.最も規模の大きいものは,県南部を東西に延びる広島花崗岩である.新生代の地層では,第三紀中新世の塩町層と備北層群が三次,庄原から三原,福山にかけて分布している.第四紀更新世の地層には甲立礫層,尾道礫層,西条礫層などが山間部や丘陵地に見られる.更新世のゾウやシカの化石が瀬戸内海海底から多数採集されている.第四紀には吉備高原や県西部に小規模の鐘状火山や溶岩台地をつくる玄武岩の噴出があった(長谷1982).

植物の分布は地質の影響が大きく,全国一の規模といわれる県面積の約70%に達する流紋岩類や花崗岩類の分布は,広大なアカマツ林の分布と密接に関係している.これら火成岩類の中に点在する古生層(一部,中生層を含む)との間で,植物相や植生に著しい対比が見られる.県東部には石灰岩地帯や蛇紋岩地帯があって,特殊な植物相や植生が分布している.世羅台地の鐘状火山では,周辺の花崗岩と火山の玄武岩との間で顕著な植物相や植生の差異がある.

気候

広島県の気候は,全体として温和である.県東南部は瀬戸内小気候区に属し,温暖で年平均気温14~16℃(一部は16℃以上),降水量は少なく,年降水量1200~1400 mm(一部は1200 mm未満)である.県中央部から南部は山陽小気候区に属し,温暖で年平均気温12~16℃(島嶼部では16℃以上の地域もある),降水量も少なく,年1400~1600 mm未満である.県北部及び西部の高地は中国山地小気候区に属し,冬季は寒冷で積雪も多く,年平均気温12~10℃未満,山岳地帯では8℃未満,年降水量は1600~2000 mm未満,山岳地帯では2000 mm以上に達する.最深積雪は,県中央部から南部では10~30 cm未満であるが,中国山地の山麓では50~100 cm未満で,山岳地帯では100 cm以上のところもある(田中1982; 広島県1987).このような,日本海側に匹敵する多雪地帯の存在が広島県の植物相に大きな特色を与えている.

目次

関連ページ

  1. 黎明期
  2. 明治・大正より昭和前期(1868~1945年)
  3. 戦後(1945年)~現代

本章の引用文献


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