宮島の自然

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海から望む広島県廿日市市宮島 Miyajima Is., Hiroshima, SW Japan(撮影: 坪田博美; May 21, 2007)

目次

宮島の自然

1. 宮島の地形

宮島(厳島)は,廿日市市の最南部,広島湾の北西部にある島で,広島市の中心部から直線距離で約15 km南西に位置する.北東から南西方向にのびる長方形の島で,面積が約30 km2,北東から南西方向に約9 km,北西から南東方向に約4 kmの幅がある.対岸と大野瀬戸で隔てられるが,もっとも近い場所で約300 mしか離れていない.大野瀬戸は五日市断層帯と岩国断層帯を結ぶ線上にあり,大きな断層と考える研究者もいる.周囲には可部島や絵の島,大奈佐美島,小黒神島,江田島,能美島,阿多田島などが点在する.国土地理院の地形図では厳島が正式な名称であるが,宮島という呼称も広く用いられる.宮島は平地が少なく山が急峻で,最高峰の弥山(535 m)をはじめ駒ケ林(509 m)と岩船岳(466.6 m)がある.

厳島神社の背後にある弥山原始林は,1929(昭和4)年国の天然記念物に指定され,1957(昭和32)年に特別保護地区になり,1996(平成8)年厳島神社とともに世界遺産に登録されている.島の全域が1934(昭和9)年に瀬戸内海国立公園に編入され,特別保護地区(弥山周辺や弥山原始林)や特別地区(特別保護地区を除く地域)となっている.また,1952(昭和27)年には国の特別史跡及び特別名勝にも指定され,島全体および一部の周辺海域が世界遺産のバッファーゾーンになっている.

2. 宮島の地質

宮島は全島が花崗岩からなっている.花崗岩は風化しやすく,非常にもろくなる.一方,主成分の石英は風化しにくい.このため,花崗岩が風化して生じた砂は,石英を主体とする粗い粒子と,斜長石や黒雲母が風化してできた粘土からなり,真砂土とよばれる.また,風化した花崗岩は崩れやすく,降雨により砂が流れやすい.このため砂防指定地に指定されている場所が多い.瀬戸内海の白砂青松の景観は,花崗岩やそれが風化した真砂土によるものである.花崗岩を母岩とする宮島も例に漏れず,古くから土石流の記録が残されている.白糸川や滝町など,島内の地名にもその名残と考えられるものが見られる.近年も,紅葉谷川や白糸川で土石流がおこり,厳島神社や市街地に被害をもたらした.紅葉谷川では,1945(昭和20)年9月に枕崎台風の影響で山崩れが生じ,土石流となって下流に大きな被害が発生した.1948(昭和23)年から砂防事業として特別名勝厳島災害復旧工事がはじまった.工事では,現地の石材の利用や樹木を伐採しないなど自然を生かした工法が採用され,庭園師や石工の技術を使って紅葉谷川庭園砂防が作られた.現在,紅葉谷公園の奥紅葉谷の庭園砂防は,その安全性と自然との調和から世界的にも高い評価を得ている.

3. 宮島の植生

植生は気候や地質,人為的な影響などに大きな影響を受ける.宮島のある瀬戸内海は日本の中でもっとも降水量が少ない地域のひとつである.また,宮島を含めた瀬戸内海沿岸は花崗岩を母岩とする地域が多く,土壌の発達に時間がかかり,いちど植生が失われるとその回復に時間がかかる.さらに,瀬戸内海沿岸は古くから人為的な影響を大きく受けてきた地域であり,結果としてアカマツ二次林などの人為的な影響を強く受けた植生が成立していた.第二次世界大戦後,燃料革命や化学肥料の普及,農業を中心としてきた社会構造の変化にともない,森林が利用されなくなり,結果として自然にまかせた遷移が現在進行している.一方宮島では,全島が古来より厳島神社の社寺林(社叢)のような扱いをされており,人の影響をあまり受けることなく今日に至った.このため,宮島には弥山原始林をはじめとした自然度の高い森林が残っている.これらの森林は常緑の樹種からなる照葉樹林であり,瀬戸内地域に本来成立していた植生であると考えられている.瀬戸内海沿岸では一部の社寺林や城山を除いて現在ではほとんど残っておらず,宮島の植生は瀬戸内海沿岸地域の自然を残した非常に貴重なものであるといえる.一方,宮島島内にも許可を得て利用されてきた場所や炭焼き窯の跡も存在し,宮島の植生にまったく人の手が加わらなかったわけではない.現に,宮島では樹木の伐採が禁止されていたが,廿日市市の洞雲寺の伐採許可に関する文書が残っている.また,江戸時代以降,いくたびもの山火事によって森林が消失しており,火災後に成立した比較的自然な状態のアカマツ林が1970年代まで島内で普通に見られた.その後,1960年代後半から続く北米原産の外来種マツノザイセンチュウによる松枯れ病の影響や,1980年代に宮島南西部で起こった山火事では広大な面積の森林が大きなダメージを受けたり失われたりした.現在,これらの場所では,コシダウラジロといった陽生のシダ植物で覆い尽くされて遷移が停滞している場所も多いが,宮島では稲作農業がほとんど行われていなかったことから,全体としては対岸と比較して比較的自然度の高い植生であるといえる.

宮島には,海中から山頂まで連続した自然植生が残されており,アマモ群落やハマゴウ群落,ヒトモトススキ群落,モミ-ミミズバイ群落,モミ-ツガ群落,コジイ群落,ヒノキ・コウヤマキ群落などが存在する.宮島島内でもっとも自然な状態の植生が保たれているのは,弥山の北斜面一帯にある弥山原始林である.弥山原始林の植生は海抜や地形に応じて大きく3つに分けられる.1)海抜でおおよそ100 m以下に相当する山麓部の緩斜面では,クスノキ・クマノミズキ群落やモミ-ミミズバイ群落が見られる.この植生帯では,モミクスノキカヤミミズバイカンザブロウノキシキミアセビイヌガシシロダモタイミンタチバナホウロクイチゴイズセンリョウなどが生育している.次に,2)山麓より海抜の高い海抜300 m以下の斜面では,コジイ群落が発達する.この植生帯では,コジイシリブカガシトキワガキウバメガシタイミンタチバナミミズバイなどが見られる.さらに,3)弥山や駒ケ林,それから連なる尾根を中心とした海抜が300 mより高い山地では,モミ・アカガシ群落やツガ-アセビ群落が発達している.ここではアカガシウラジロガシツクバネガシハイノキミヤマシキミムラサキベニシダなどが生育している.300 m程度で植生の違いが生じる原因のひとつとして,地形の違いに加えて,雲や霧がかかるのが境界より上の部分に限られることが考えられる.そのほか,弥山原始林内で見られる二次林として,アカマツ-クロバイ群落があげられる.ここではアカマツに加えて,クロバイヤブツバキなどの照葉樹と,ネジキリョウブウリハダカエデコバノミツバツツジなどの落葉広葉樹が混生する.宮島島内のアカマツ二次林では,遷移段階に応じて,ネズヤマツツジススキガンピミヤジマママコナなどの陽生植物が出現する型から,イヌガシシロダモなどの陰生植物が出現する型に移行していく.一方,条件によっては退行遷移が起こり,林床にコシダウラジロという陽生のシダ植物が密生する型になる場合もある.

谷の下部とくに谷の出口では,土砂の堆積や土石流の発生にともない,扇状地のような堆積地形が発達する.堆積地形では土壌が深く,地下水などの水流も存在するため,森林が発達する.宮島では,大元谷や紅葉谷などの出口に堆積地形が発達し,そこにモミ林が成立している.モミアカマツ同様に陽生植物であること,裸地が生じると一斉に発芽した多くの実生が見られること,これらのモミ林を構成するモミの樹齢が不連続であることなどから,モミ林は土石流のような比較的大規模な自然攪乱を受けた土地が生じた後,人の手があまり加わらない場合に成立する植生であると現在では考えられている.

4. 宮島の植物

瀬戸内海沿岸の植生は古くから人為的影響が大きく,アカマツ林になったり,極端な場合は禿げ山になっていた.一方,宮島は本土から非常に近いにもかかわらず,海で隔てられ,ある種の神域として自然が守られており,瀬戸内海本来の植生が残っている.このため,宮島で見られる植物の種は本土側とは著しく異なっている.また,宮島でこれまでに確認されている維管束植物の種数は約700であり,広島県で見られる維管束植物の約1/3の種を見ることができる.この数は,瀬戸内海の島の植物相(フロラ)としては非常に多い種数である.宮島の植物相の特徴として,1)寒い場所を起源とする種と,暖かい場所を起源とする種が共存すること(例.モミとミミズバイ)や,2)稀少種が多く見られること,3)普通種であっても自然の状態で生育していること,4)本土側や他の島嶼で普通種とされる植物や人里や路傍の植生を構成する植物が少ないこと(例.アベマキやコナラ,イヌツゲ,ノグルミ,ナツハゼ,ネザサ,キンミズヒキ,スズメノテッポウ,チヂミザサ,ノアザミなどが見られない),5)ニホンジカの影響を受けた植物相である(イネ科やカヤツリグサ科などの草本が少なく,アセビやシキミ,ハスノハカズラ,レモンエゴマなどの有毒植物や強い臭いを持つ植物や,カンコノキやホウロクイチゴなどの棘をもった植物や堅い葉を持つ植物が多い)ことなどがあげられる.

広島県内で宮島だけ,あるいは広島県内で数か所しか生育地が確認されていない植物の多くが宮島で生育が知られている.宮島で見られる稀少種としては,カギカズラやカンコノキ,カンザブロウノキ,コテリハキンバイ,コバンモチ,ミヤジマシモツケ,シロバイ,シバナ,ヒメハシゴシダ,ホウライカズラ,ホウロクイチゴ,マツバラン,ミミズバイ,モロコシソウ,ヤマモガシ,オオカグマなどがあげられる.また,最近になって熱帯から亜熱帯に分布するヒナノシャクジョウやシロシャクジョウ,ホンゴウソウなどの菌従属栄養植物(以前は腐生植物とよばれていた)の生育も確認されている.

海中ではアマモやコアマモ,ヤマトウミヒルモが見られる.海岸植生では,ハマゴウやヒトモトススキ,イワタイゲキ,シバナなどが生育している.これらの植物は宮島では比較的ふつうに見られるが,瀬戸内海沿岸では埋め立てや護岸工事により急速に見られなくなっている.弥山原始林などの山地では,モミやツガ,ヤマグルマ,ヤブツバキ,ミミズバイ,マツブサ,ダイセンミツバツツジ,コウヤコケシノブなどが見られる.ヤマグルマやマツブサは原始的な形態をもった植物とされ,植物学上重要な植物である.ドイツの植物学者のアドルフ・エングラー博士が1913(大正2)年に宮島を訪れ,弥山に登山した際,これらの植物を見て感激し,「私は,できるならば一生ここに住んで,ここで死にたい」と言って弥山の植物を激賞したと伝えられている.エングラー博士の強いすすめで,三好学博士が天然記念物への指定を進言したことで,弥山原始林は国の天然記念物に指定された.また,岩船岳や弥山にかけての尾根筋ではコウヤマキが生育している.コウヤマキは日本固有種で,材が水に強く,弥生時代や古墳時代には最上級の棺材として用いられた.朝鮮半島の出土品からも見つかっており,古くから交易があった証のひとつとされている.

宮島はモミジが有名であるが,そのほとんどがイロハモミジやオオモミジ,トウカエデである.これらのモミジは宮島には自生せず,江戸時代以降に島外から持ち込まれて植栽されたものである.宮島に自生するモミジはウリハダカエデだけで,広島県内では比較的海抜の高い地域を中心に広く分布している.

宮島に由来する和名をもつ植物として,ミヤジマシモツケ(ウラジロイワガサ)やミヤジマカエデ(現在,ヤマモミジの異名(シノニム)とされている),ミセンアオスゲ,ミヤジマママコナ,ミヤジマシダ,ミヤジマキンシゴケ,ミヤジマヒメゴヘイゴケ,ミヤジマヨウジョウゴケなどがあげられる.

5. 宮島の動物

宮島で見られる大型哺乳類としては,宮島のシンボル的存在になっているニホンジカが見られる.ニホンジカは宮島にもともと生息しており,植生や植物に大きな影響を与えている.餌付けされたため健康を害したり,個体の分布に偏りが生じ植生に影響が出たため,現在では給餌が禁止されている.ニホンザルは昭和になって小豆島から移入されたものであり,野生ではない.個体群が管理できなくなったため,現在捕獲が行われている.その他,宮島島内ではタヌキやイノシシの生息が確認されている.鳥類はこれまでに136種が確認されている.宮島で営巣するミサゴや御鳥喰(おとぐい)式で有名なハシボソガラス,旧宮島町の鳥であるヤマガラなどが見られる.昆虫は多くの種が確認されており,稀少種としてミヤジマトンボルイスハンミョウがあげられる.ミヤジマトンボは日本では宮島にしか現存しないトンボである.かつては周辺地域でも生息していたと考えられているが,現在は宮島島内の限られた場所でしか見られない.宮島以外では,別の亜種が中国南部で確認されているだけである.現在,絶滅の危機に瀕しており,環境省RDB絶滅危惧種I類や自然公園法の指定動物,広島県の特定野生生物種に指定され,捕獲が禁止されている.ルイスハンミョウは西日本の海岸に生息するが,埋め立てや護岸工事に伴い生息場所が急速に減少している.

参考文献

  • 厳島の植物と自然
  • 宮島町誌掲載の論文
  • 豊原源太郎 ニュースレターの記事

本稿について

本稿は,2011年10月に広島県廿日市市宮島町で開催された中国高等学校登山大会(宮島)の際に配布されたテキスト用に坪田博美(広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実験所)が書き下したものを元に再編集したものである.各項目については,本実験所に所属していた関太郎広島大学名誉教授や豊原源太郎元助教授の論文や雑記をはじめ,宮島に関する過去の文献を参照したものであるが,個々の引用文献などを具体的に引用していない点ご了承願いたい.また,必要に応じて参考文献を参照されたい.


弥山原始林の植物と植生