坪田 2018 新刊紹介Hikobia

提供: 広島大学デジタル博物館
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坪田博美. 2018. 新刊紹介: "中生代植物研究会(編著). 日本産ジュラ紀の植物化石図鑑, 来馬型植物群" Hikobia 17(4): 343-344.

中生代植物研究会(編著). 日本産ジュラ紀の植物化石図鑑, 来馬型植物群. 124 頁. (2017). 中生代植物研究会, 福井. 定価\2,000. (ハードカバー) (ISBN: なし).

 本書は日本産の植物化石の図鑑で,おもに前期ジュラ紀の来馬型植物群を扱った書物である.本書に関するこれまでの経緯や活動については,2018年3月10日に金沢市で開催された日本植物分類学会公開シンポジウム「郷土植物学が支える日本の科学」の中でも紹介された.本書は平成26年度の国際花と緑の博覧会記念協会助成事業で採択された活動の成果にもなっており,中生代植物研究会(会長:寺田和雄氏)が編集・執筆を行っている.著者らは,わかりやすい図鑑を出版することによって,古植物学の継承・発展・普及啓発を目的としている.日本語の図鑑を出版することで,日本国内での古植物学の裾野が広がり,博物館や所蔵標本の価値・意義の普及,存在意義の理解と定着につながり,次世代の古植物研究者が日本で減少している現状を打破することを目指している.本書では写真や図とともに日本の前期ジュラ紀の植物化石30属50種について説明されており,植物の進化・系統・分類について解説されている.A4版でカラー印刷で,絵合わせできる植物化石図鑑を標榜するように写真や図が多く使われている.本書の内容は,前半にある古植物学の解説と後半の各植物群の解説で構成されている.前半の古植物学の解説では,「次世代の日本の古植物研究者へ」,「本書の使い方」,「植物形態用語」,「日本のジュラシックについて」,「来馬層群と岩室層について」,「来馬型植物群について」,「木村達明先生と関戸信次先生」,「小松市立博物館について」,「化石分類群について」,「学名について」,「化石の命名について」,「陸上植物の進化」,「分類体系と配列について」の項目があり,それぞれ簡潔にまとめられている.用語説明だけでなく,日本の古植物学の歴史についても説明がなされている.後半の各植物群の解説では,はじめにシダ植物(トクサ目,リュウビンタイ目,ゼンマイ目,ウラジロ目,ヘゴ目,シダ植物目・科不明),次に裸子植物(シダ種子類,ベネチス目,ソテツ目,裸子植物目・科不明,イチョウ目,チェ可能スキア目,マツ目)と分類体系順に説明されている.トクサ目が大葉シダ植物に置かれるなど最近の分類体系に従っている.最後に,「用語解説」や「索引」,「本書に出てくる学名の意味」,「本書に出てくる人々」,「引用文献と主な参考文献」,「あとがき」が続く.解説では,検索表や各種の記載,産出する地層や学名の意味や由来も説明されている.本書の最大の特徴は写真や図版である.解説の中でも写真や図が多用されたり,現生種が存在するものについてはその写真があったり,化石植物の生態復元図でヒトの大きさとの対比がなされるなど各所に理解の助けになる工夫がみられる.印刷も高精細のカラー印刷(300線印刷)が採用され,化石の画像のマスキング処理により対象とする部分が鮮明化され,化石の細部まで写真で確認できる.古植物学の入門書として適した書であり,是非手元に置いておきたい一冊である.なお,本書は小松市立博物館所蔵の植物化石を紹介した解説書にもなっており,当該博物館で購入可能であるが,購入や問い合わせは電話または電子メール(info(アットマーク)tyushokukai.net宛)でも可能とのこと.内容の詳細については,中生代植物研究会のWebサイト(http://tyushokukai.net/)に掲載されているので,そちらもご覧頂きたい.