反芻動物
提供: 広島大学デジタル博物館
(反芻から転送)
ナビゲーションに移動検索に移動反芻動物(はんすうどうぶつ)
- 反芻する植物食動物の総称.反芻により植物を効率よく消化することができる.
- 世界で約150種存在し,一部は家畜化されている.
- 複胃を持つ.複胃は第一胃,第二胃,第三胃,第四胃の四つの胃からなる.第一胃と第二胃をまとめて反芻胃と呼ぶこともある.
- 4室性の複胃を持つウシやシカ,ヤギ,ヒツジ,カモシカなどの仲間と,3室性の複胃を持つラクダやリャマ,マメジカなどが含まれる.
- 鳥類の中にも類似した仕組みをもつものが存在する.
- 反芻しない植物食動物は後腸発酵動物とよばれ,ウマやウサギなどが含まれる.盲腸が発達しており(後腸),そこで繊維が消化される.
- 農耕と深く関わり,労役や食肉利用のために家畜化されたものがある.性格に加えて,農耕で得られる植物の繊維を利用でき,ヒトが食べないものを有効活用できることも,家畜として選択された理由の一つと考えられる.
反芻(はんすう)と微生物の役割
- 宮島のシカが座ってゆっくりくつろいでいる時,口や喉を観察していると,口を動かしたり,喉を塊が上下している.一度食べた植物を胃から口に戻し(逆蠕動運動),半分未消化の食物をまた噛んで飲み込む.この行為を反芻と呼ぶ.
- 反芻動物は食事の際,植物をあまり咀嚼せずに飲み込み,まずは胃に収める.その後,反芻により食べた植物を口腔内に戻し,咀嚼することですり潰しながら唾液を絡められる.再び飲み込まれると,共生する微生物(細菌や古細菌,原生動物(プロトゾア,原虫))による分解・発酵が促進される.
- 唾液には,反芻の際の潤滑剤としての役割や,反芻胃内のpHを一定に保つためのバッファー(緩衝液)としての役割がある.
- ルーメンのpHが低下すると繊維も消化されにくくなる.また,ルーメンアシドーシスが発生する.
- 反芻胃の中で微生物が増殖し,植物の分解が進むと脂肪酸(揮発性脂肪酸, VFA)やその他(カルボン酸など)が作られ,それを吸収して利用する.
- 細胞壁から酢酸が,細胞内容物からプロピオン酸が産生される.その他,酪酸や蟻酸なども産生される.
- 反芻動物の健康維持に胃の中に共生する微生物叢は大きく関わっている.反芻動物は微生物の助けを借りて植物を効率よく消化・発酵し,エネルギーやタンパク質などを得ている.
- ウシの場合,胃内環境の管理の重要性が認識されており,「牛飼いは虫飼い」とも言われることがある.
- 畜産分野ではルーメンアシドーシスが知られている.ルーメンアシドーシスはルーメン(第一胃)内のpHが低下した状態を指す.ルーメン内では,微生物が繊維やデンプン,糖を分解しており,そのバランスが崩れるとpHが低下する.ルーメンアシドーシスにはルーメン内の微生物が関わっており,微生物叢のバランスが崩れ,乳酸や酪酸の産生量が増加して発酵バランスが崩れることで起こる.
- ルーメン内の環境は食物によっても影響を受ける.粗飼料の割合が高いと酢酸濃度が高くなり,pHも高くなる.一方,穀類の割合が高いとプロピオン酸濃度が高くなり,pHは低くなる.
- 繊維質が多く含まれる飼料は飼料摂取を調節に重要であり,繊維は反芻を刺激したり,ルーメン機能や消化を正常な状態で維持するために役立っている.
- 摂取する水の量も重要で,十分な量の水は唾液の分泌と反芻を促すだけでなく,ルーメンを満たすとともに,繊維の分解や消化管の蠕動(ぜんどう)に良い影響を与える.
反芻動物の消化・吸収のしくみ
- 反芻動物はセルロースが分解できないため植物を直接栄養にすることができないが,胃の中で植物を利用できる微生物を育て,産生された脂肪酸をエネルギー源として吸収している.さらに水分やミネラルを吸収して,最終的にタンパク源としてを吸収している.
- ウシの場合,脂肪酸から得られるエネルギーが全体の60-70 %を占めるとされる.
複胃のやくわり
- 第一胃はルーメンあるいは瘤胃(こぶい)とも呼ばれ,微生物が多く含まれる.採⾷された植物は撹拌・混合され,微生物は植物を分解し,脂肪酸が生成される.脂肪酸はエネルギー源となる.
- ルーメンには多様な共生微生物が存在しており,宿主が分解できないセルロースやヘミセルロースのような繊維質を主体とする植物バイオマスの発酵・分解を行っている.
- ウシの場合,体の左側に位置する.
- 第二胃は蜂巣胃(ほうそうい)とも呼ばれ,壁が凹凸で表面積を増やし,脂肪酸を吸収しやすい構造になっている.第ニ胃が収縮することで吐き戻され,食物が口に送られ,再咀嚼される(反芻).何度か反芻が繰り返され,細かくなった食物は第三胃に送られる.
- 第一胃と第二胃の2つの胃を合わせて反芻胃と呼ぶことがある.消化液はあまり分泌されず,発酵の場となっている.
- 第三胃は葉胃あるいは重弁胃(じゅうべんい)とも呼ばれ,ヒダの多い構造になっている.水分やミネラルを吸収するはたらきをもつ.
- 微生物により分解・発酵が進んだ食物をヒダの間に挟み,水分やミネラルを吸収している.
- 第四胃は皺胃とも呼ばれ,消化機能をもっている.消化液(胃液)を分泌し,胃酸で微生物を殺菌して消化するたらきをもつ.消化された微生物およびその分解生成物は腸へ送られて吸収され,タンパク源・エネルギー源となる.
- 微生物にはタンパク質が含まれ,分解されてアミノ酸として吸収される.
反芻動物が出すメタン
- 第一胃で発酵する過程で脂肪酸とともにメタンが生成される.メタンは温室効果ガスとしても知られ,二酸化炭素より強い温室効果を持っている.
- メタン放出源としては,湿地やシロアリに由来する自然起源と化石燃料採掘や畜産,農耕,埋め立てなどに由来する人為起源がある.
- ウシが放出するメタンは全世界の温室効果ガス総排出量の約5 %を占めると推定され,その削減のための研究も行われている.
参考文献
- 三森眞琴. 2014. ルーメン機能を支える微生物. 家畜感染症学会誌 3(2): 41-44.
- 新井鐘蔵. 2017. 亜急性ルーメンアシドーシス(SARA). 畜産技術 2017(743-Apr.): 54.
インターネットリソース
- 農畜産業振興機構 >> 消費者コーナー >> 【まめ知識】なぜ、牛の胃は4つもあるの? https://www.alic.go.jp/koho/kikaku03_001316.html
- 帯広畜産大学 >> 反芻家畜の特徴と地球温暖化 https://www.obihiro.ac.jp/gyugyutto/6262
- 環境研ミニ百科 > 反芻動物 https://www.ies.or.jp/publicity_j/mini_hyakka/42/mini42.html
- 北海道 > 釧路総合振興局 > 産業振興部 > 釧路農業改良普及センター > 飼養管理を再考~ルーメンアシドーシスを見つける~ https://www.kushiro.pref.hokkaido.lg.jp/ss/nkc/gijyutu240105tyu.html
- 国立環境研究所 >> 世界のメタン放出量は過去20年間に10%近く増加 https://www.nies.go.jp/whatsnew/20200806/20200806.html
- 気象庁 >> 温室効果ガスWeb科学館 > 展示室1 温室効果ガスに関する基礎知識 https://www.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/tour/tour_a1.html