年報(年度)

教育博物館

概要

 広島高等師範学校初代校長である北条時敬は、大正2年(1913)に東北帝国大学総長に転任することとなった。 尚志同窓会は同氏の多大な功績を顕彰するため、北条校長頌徳記念事業を行うことを決定し、同氏の意見により広島高等師範学校内に教育博物館を建設をすることとなった。
 そうしたところ、大正3年に学校に隣接する内務省管轄の土木監督署が文部省に保管替えとなったので、この建物を教育博物館に転用することが決定した。そのため尚志同窓会は、同敷地内に北条の記念館として「永懐閣」を建設し、同校に教育博物館の一部として寄付した。
 こうして広島高等師範学校附属教育博物館は、大正4年11月に開館した。翌5年の「附属博物館規定」によれば、研究部・考案品部・参考品部より成り、「教育博物館ハ教育ノ学理及実際ニ関シ研究ヲナシ且ツ諸般ノ教育品ヲ陳列スル所トス(第1条)」や「本館ハ随時教育展覧会講演会等ヲ開催スルコトアルヘシ(第5条)」などと定められた。
 その後、昭和4年(1929)に広島文理科大学の開設に伴い、教育博物館の建物が教室として転用されたため一時閉鎖されるが、昭和9年に広島文理科大学附属教育博物館として再出発した。調査部と研究部が設けられ、各種展覧会を開催していたが、戦争の激化に伴い、昭和17年頃には活動を停止したようである。なお、永懐閣をはじめとする教育博物館の建物は、昭和18年に設立した理論物理学研究所に転用されたが、昭和20年8月6日に投下された原子爆弾により壊滅した。

沿革
大正2年(1913)
広島高等師範学校初代校長 北条時敬の転出が決定
北条時敬の胸像(教育学部A・B棟間の中庭)
尚志同窓会が同氏を顕彰する事業として本人の意見により教育博物館の建設を決定
大正3年(1914)
旧土木監督署の建物を教育博物館とすることを決定
大正4年(1915)
尚志同窓会が「永懐閣」を建設し、教育博物館の一部として寄付

   建設中の永懐閣(右)と旧土木監督署(左)(所収:名和弘彦編(1987))
広島高等師範学校附属教育博物館が設立(主事:岡部為吉(心理学教授))

   永懐閣(右)と教育博物館(左)(所収:名和弘彦編(1987))
大正5年(1916)
塚原政次(心理学教授)が主事になる
欧州戦争写真展覧会を開催(会期:8日、入場者:18,830人)
大正6年(1917)
欧州戦争写真展覧会を開催(会期:12日、入場者:14,300人)
大正7年(1918)
書展覧会を開催
英米文豪展覧会を開催
絵画展覧会(絵画同好会主催)を開催(会期:3日、入場者:約800人)
大正8年(1919)
新見吉治(歴史学教授)が主事になる
代用品展覧会を開催(会期:15日)
御大礼装束及米国諸学校成績品展覧会を開催
児童中心家庭展覧会(会期:15日)
大正10年(1921)
教育博物館内にペスタロッチ室を設ける
大正14年(1925)
数学教育講習会を開催
昭和3年(1928)

   昭和3年頃の教育博物館平面図(所収:広島高等師範学校編(1928))
昭和4年(1929)
広島文理科大学の開設に伴い一時閉鎖
昭和9年(1934)
広島文理科大学附属教育博物館として再開(館長:新見吉治)
国民精神作興展覧会を開催
鮮満北支事情展覧会を開催
中学校作業科展覧会を開催
昭和10年(1935)
明治時代普通教育教科書研究展覧会を開催
西洋関係文化展覧会を開催
昭和11年(1936)
長田新(教育学教授)が館長になる
吉田松陰研究展覧会を開催(会期:8日)
博物教育大展覧会(共催:博物学会)を開催(会期:5日、入場者:約20,000人)
昭和12年(1937)
応用理科標品展覧会を開催
昭和13年(1938)
数学理科工作研究品展覧会を開催
外国教科書展覧会を開催
昭和14年(1939)
日本教育偉人肖像並文献展覧会を開催
大陸教育展覧会を開催(会期:4日)
博物教育展覧会(共催:博物学会)を開催(会期:4日、入場者:約8,000人)
昭和15年(1940)
教科書(支那排日教科書其の他)展覧会を開催
日本文化貴重図書展覧会を開催
紀元二千六百年記念理化展覧会を開催
昭和16年(1941)
明治大正昭和本邦作家油絵展覧会を開催
文理大高師美術作品展覧会を開催
昭和17年(1942)
この頃活動を停止する
昭和20年(1945)
原子爆弾により永懐閣等の建物が壊滅

   壊滅した永懐閣(所収:名和弘彦編(1987))
参考文献

1:学校教育,33・36・60・63・65・66・69・71・76号,学校教育研究会.

2:『広島高等師範学校要覧』・『広島文理科大学広島高等師範学校広島臨時教員養成所一覧』

3:博物学会誌,2・7号,博物学会.

4:広島文理科大学・広島高等師範学校共編(1942):『創立四十年史』広島文理科大学.

5:広島高等師範学校編(1951):『永懐』広島高等師範学校.

6:広島高等師範学校創立八十周年記念事業会編(1982):『追懐』広島高等師範学校創立八十周年記念事業会.

7:名和弘彦編(1987):『尚志会創立八十周年記念』尚志会.

8:佐藤優香(1999)広島高等師範学校の教育博物館.博物館学雑誌,24(2),29-36.