セン類のスギゴケのなかまを例にとると,胞子の殻から細胞が伸びだして,細胞分裂をくりかえし,分枝した糸状の原糸体(げんしたい)を形成する.この原糸体はたくさんの葉緑体を含んでいるため,緑色を呈し,外見上はまるで糸状のアオミドロのような緑藻類(りょくそうるい)に似た形態をとる.
原糸体がさかんに成長して,その広がりが一定の状態になると,それまでの細胞分裂とはちがう様式の分裂(それまでは細胞は分裂が1回づつであったが,あらたに3回連続する分裂がはじまる.言い換えるとここで3つの分裂面をもつ頂端細胞が生じたということである.頂端細胞を茎の先端からながめた場合,そのかたちは三角形となる.)がおこり,これによって初めて茎と葉の区別のある植物体(これを茎葉体(けいようたい)とよぶ)となる芽が生じる.それまで原糸体は平面状に広がっていたが,コケ植物はここで直立する体制をとって,生活圏を空間にも拡大する.コケ植物の配偶体はこの原糸体と茎葉体からなりたっている.
この茎葉体が十分に成長すると,茎の上に精子をつくる棍棒形の造精器(ぞうせいき)と卵をつくるフラスコ形の造卵器(ぞうらんき)を生じる.造精器と造卵器が同じ茎葉体につく場合(雌雄同株)と,別々の茎葉体につく場合(雌雄異株)とがあり,種によって一定である.
コケ植物ではこの造卵器と造精器のつきかたには種種の様式が知られている.成熟した造精器から精子が放出されると,精子は薄い水の膜を利用して造卵器にたどりつき,造卵器の底の卵に達し,受精する.受精卵(あるいは接合子)は造卵器の中で細胞分裂を繰り返して胞子体となる.胞子体の成長とともに造卵器の腹部や柄の部分の細胞も分裂し,成長して,胞子体を取り囲む袋状となる.しかし,さらに胞子体が成長するとその成長に追いつかず,袋状のものは水平に寸断される.切り取られた上部にものは帽(ぼう)となって胞子体の先端部を保護するように,覆いかぶさったまま成長をつづける.このときの胞子体の細胞には葉緑体があり,緑色である.やがて胞子体の先端が膨らんでマッチのような姿になる.先端が膨らんで,コケの種に特徴的な形をとる.この時期に帽の成長は停止していて,帽の形もコケの種に特徴な形をとる.緑色の凾フ先端部に赤褐色に着色した輪がみられるころ,多くの場合,凾フ中では減数分裂がおこっていて,胞子が形成される瞬間をとらえることができる.胞子が成熟するとともに凾ヘ緑色を失い,褐色となる.胞子体の一生はここで終えることになるが,その発生からそれまでの間,茎葉体に寄生した状態で一生を終える.
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