宮島の植物

  宮島は1996年に、人類共通の貴重な財産であるとして、ユネスコの世界道産に登 録された。世界道産の対象とされたのは、厳島神社と人の影響からのがれ豊かな自然を残 している弥山原始林の部分であるが、宮島の自然は海も含めて全島に貴重なものを有し ている。

 宮島の植物相(植物の種類)と植生(植物の社会)の特徴
  1. 宮島は本土と近い位置にありながら、植物の種類が本土とは著しく異なる。
  2. たくさんの希少種が存在する。オオカグマ、カギカズラ、カンコノキ、カンザブロウノキ、コケセンボンギク、コテリハキンバイ、コバンモチ、ミヤジマシモッケ、シロバイ、シバナ、ヒメハシゴシダ、ヒナノシャクジョウ、ホウライカズラ、ホウロクイチゴ、ホンゴウソウ、マツバラン、ミミズバイ、モロコシソウ、ヤマモガシなど。
  3. 宮島の植物相は豊富であり、723種の維管束植物が確認されている。
  4. 寒いところに生息する植物と暖かいところに生息する植物が共存している。
  5. 希少植物でなく普通に見られる植物であっても人の影響を免れて、自然の状態で生活していることに価値がある。
  6. 豊かな自然植生がある:ハマゴウ群落、ヒトモトススキ群落、モミ−ミミズバイ群落、モミ・ツガ群落、コジイ群落、ヒノキ・コウヤマキ群落など。
  7. 沢山の希少種がある反面、本土や他の島には普通に見られる植物が少ない。特に里山の植物が欠如しているかきわめて少ない:アベマキ、イヌツゲ、コナラ、クリ、ナツハゼ、ネザサ、フジなど多数。
  8. 人里や路傍植生の植物が少ない:ウツボグサ、キンミズヒキ、ササクサ、スギナ、スズメノテッポウ、チヂミザサ、ツリガネニンジン、ノアザミ、ノビル、ヒバンバナ。

 宮島の植物が豊かに保たれてきたのはなぜか?
 宮島は周囲30kmの島である。一般に島は外界と隔離されていることから、島への生物の進入と定着のプロセス、それに続く生物の進化、生態遷移、帰化植物の侵入と拡散が明瞭な形でとらえられる。宮島は少なくとも7世紀以後は神の島として全島が保護され、人の影響をあまり受けることなく今日に至った。全く人が森林を伐採しなかったというのでなく、許可を得て適当に利用したようであり、全島の9害|Iはアカマツニ次林となり、林内には炭焼き窯の遺跡もある。しかし、本土(こ比べてはるかに自然性の高い二次林である。宮島の自然がよく保たれてきた最大の要因は、水田耕作を中心とした農業が営まれてこなかったことであり、里山が見られないことである。宮島には、年間250〜300万人の観光客が訪れており、植生にかなりの影響を及ぼし続けてきたが、植生に与える人の影響は宮島の森林を里山化させる方向には作用していない。

 宮島以外の島の植生は本土と似ている
 人の住む島では、宮島よりも、本土から離れた位置の島であっても、本土と似た植生になっている。外界から隔離された島であっても、どの島にも特異な植生が存在するわ'ナではない。宮島だけが特異な植生を保持しているのである。宮島ではほとんど稲作農業が行われなかったことにより里山が形成されなかったことから、特異な植生を保つことができたと思われる。小さな無人島では特異な植生が見られるが、それほど豊かな植物相は見られない。

U 弥山原始林の植物と植生
  宮島のシンボルであるモミジ(モミジは広島県の県木、県花である)はイロハモミジやオオモミジであるが、それらは本来宮島に自生しない植物で、植栽されたものである。紅葉谷公園のモミジには、その他トウカエデのような外国のカエデも植栽されている。ウリハダカエデは比較的寒い地域に生息するが、宮島に自生している。
弥山原始林は弥山(529.8m)の北斜面一帯の森林を指しており、宮島では最も自然の保たれてきた所である。弥山原始林の植生は大まかに3つの帯'二分けられる。(山麓部の緩斜面、海抜300mより低い山地、300m以上の山地)。

  1.宮島では、山麓部の緩斜面にはクスノキ・クマノミズキ群落が大元公園や紅葉谷公園   付近ではモミ−ミミズパイ群落が見られる。
   モミ、クスノキ、カヤ、ミミズパイ、カンザブロウノキ、シキミ、アセビ、イヌガシ、シロ ダモ、タイミンタチバナ、ホウロクイチゴ、ハスノハカズラ、イズセンリョウ、ヒメイタビ、キ ッコウハグマ

  2.海抜高300m以下の斜面にはコジイ群落が発達する。夕イミンタチバナ、シリブカガ シ、トキワガキ、ウパメガシ、ミミズバイなどは300m以下の所に出現する。
  ブナ科(コジイ、シリブカガシ、アラカシ)、ツバキ科(ヤブツバキ、サカキ、ヒサカキ.モ ッコク)、クスノキ科(シロダモ、イヌガシ、ヤブニッケイ)、ハイノキ科(クロキ、クロバ イ、ミミズパイ、カンザブロウノキ)、モクセイ科のネズミモチ、バラ科のカナメモチ、シ キミ科のシキミなどの照葉樹が豊富であり、サカキカズラ、テイカカズラ、マツブサ、ウ ラジロマタタビ、ミツバアケビ、サンカクヅルなどの木生つる植物が多く見られ、林床  にはペニシダなどの陰生植物がみられる。

  3.海抜300m以上の斜面にモミ・アカガシ群落が発達する。アカガシ、ウラジロガシ、ツ  クバネガシ、ハイノキ、ミヤマシキミなどは主として300m以上の山地に見られる。
  モミ、ツガ、アカガシ、ツクパネガシ、ウラジロガシ、カゴノキ、イヌガシ、シロダモ、ヤブ ニッケイ、シキミ、ソヨゴ、クロパイ、ハイノキ、ヤブツパキ、ヒサカキ、サカキなどが出 現し、林床に、ミヤマシキミ、サンヨウアオイ、ベニシダなどの陰生植物が見られる。

  弥山原始林内の二次林としてアカマツークロパイ群落がある。
   アカマツニ次林にはクロバイ、ヤブツバキなどの照葉樹の他にネジキ、リョウブ、ウリハダカエデ、コバノミツバツツジなどの落葉広葉樹が混生し、林床には陽生植物のコシダやウラジロが密生することが多い。ネズ、ヤマツツジ、ススキ、ガンピ、ミヤマママコナなどの陽生植物を持つ型とイヌガシ、シロダモなどの陰牛植物を持つ型に分けられる。

             広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実験所
                                   助教授 豊原源太郎
             

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