植物観察会/KansatsukaiPageMiniLetter505

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ヒコビアミニレターNo.505(2020年1月17日)

 2019年12月7日の第629回植物観察会は,2019年度ヒコビアセミナーと合同で勉強会として開催された.会場は広島大学東千田キャンパス(広島市中区東千田町1-1-89,東千田未来創生センター M402講義室).天気はくもりで,参加者は48名.14:00から3名の演者が講演を行った.講演内容は,「東欧の植生概観」(中越 信和,広島大学名誉教授),「日本産のシモフリゴケ類の研究」(出口 博則,広島大学名誉教授),「尾道市の天然記念物」(関 太郎,広島大学名誉教授) であった.16:10頃解散した.なお,各講演内容については以下の要旨を参照のこと.

(H. Tsubota & S. Uchida 記)

講演要旨

東欧の植生概観:中越 信和(広島大学・名誉教授)

 今回紹介する対象地域はバルト海沿岸のエストニアから黒海沿岸のルーマニアまでヨーロッパ(以後欧州)の東部である.ちなみにロシアなど最東部は含んでいない.今年(2019年)7月にリトアニアを訪問する機会があり,首都ビリニュス(国の東南端)と同国の中央に位置するカウナス間の植生を概観できた.この訪問で,演者は東欧を陸続きにエストニア,ラドビア,リトアニア,ポーランド,チェコ,スロバキア,ハンガリー,及びルーマニアを訪問したことになる.学会(国際植生学会,景観生態学スロバキア大会など)・調査(文化的景観,都市緑地)・研究(景観計画)などの合間に,これら8ケ国の植生も概観することができた.本セミナーではヒコビア会員が,ご存知の西欧諸国とは異なり,訪れる機会が少ないと思うこれら東欧諸国の植生を紹介したい.

 植生科学Vegetation scienceでは,その地域の潜在自然植生を把握(推定)することは重要な研究課題の一つである.東西冷戦の終結後,この課題にドイツ人研究者を中心に欧州の植生研究者が鋭意取り組んだ.その結果,BfNドイツ連邦自然保護局がウラル山脈以西の欧州の潜在自然植生図を2003年に刊行することができた.当植生図はその後も欧州の植生図として利用され続けている.このセミナーでは,まずこの植生図を参照して当該8ケ国での潜在自然植生を紹介する.植生図は250万分の1縮尺で作成されており,図から8群系Formationの潜在自然植生が抽出できた(植生自然度9及び10).この内,演者がその当該群系を実際に観察できたのは7群系(森林5,森林ステップ1,湿生草原1)に所属する13群落であった.ルーマニアに所在可能性が示されているFormation M: Steppen (草原)は観察できなかった.これら観察できた群落は,それらの多くが各国で国立公園,自然保護区及び野生動物保護区に指定されている場所に所在し,面積的には規模が小さかった.

 一方,代償植生は,落葉広葉樹二次林(植生自然度8及び7)・針葉樹植林(同6)・果樹園(同3)・採草地(同5)・牧場(同4)・農耕地(同2)からなり,平地の多い対象地域では人為的改変が著しく,特に後の5つの植生が対象地域を広く被覆していた.首都などの大都市には大きな公園や周辺にグリーンベルトの樹林が存在するが,通常の都市では植生のない「都市砂漠」(同1)状態が一般的であった.これら現存植生も観察記録を観て理解して頂くことにする.

 なお,演者は東欧の植生を研究する立場ではないので,このセミナーで結論を出すことはできない.あくまでも観察記録として記憶にとどめて頂きたい.



日本産のシモフリゴケ類の研究:出口 博則(広島大学・名誉教授)

 日本のシモフリゴケ属 (広義)の研究は,Dozy & Molkenboer (1847)がシーボルトによって採集された標本に基づいてRacomitrium japonicumを新種記載したときにはじまる.その後,Lindberg (1872), Mitten (1891), Bescherelle (1893), Brotherus (1899), Cardot (1908) 等,外国人によって,新種記載あるいは新産地報告がなされ,日本のフロラに加えられた.日本人として,飯柴永吉 (1911)が具体的な標本を示すことなく産地名だけを示しながら,種の検索表を掲げながら種の紹介をしている.また,安田篤 (1911)が植物学各論隠花部で標本を示すことなくシモフリゴケ属の種の解説をし,それらに和名を与えている.日本人として初めて新種記載したのは岡村周諦 (Okamura 1916)である: Racomitrium iwasakii Okam.この種は後に飯柴 (1929)によって,R. canescens の変種var. iwasakiiとされ,それに和名エゾスナゴケが与えられた.本格的に日本のシモフリゴケ属 (広義)の研究を行ったのは桜井久一である (Sakurai, 1936; 1937; 1954),29種10変種7品種を記録した.これを受けて,野口彰 (Noguchi 1974)は再検討を行い4種9変種に整理した.この後,日本人によつ検討はなされていず,ノルウェーのFrisvoll (1983, 1988 ),ポーランドのBednarek-Ochyraと共著者ら (1995, 2006, 2015他多数)によって世界のモノグラフ研究の中で日本の標本が検討され,既報の誤りが修正され,新知見が紹介されている.日本では,Iwatsuki (2004),Suzuki (2016)によって,それらの情報が取り入れられ,日本産蘚類のチェックリストが更新されている.その中に解釈の誤りがあったり,また出版される写真集や蘚類相の報告に学名のあて違いや日本に産しないとされている種の学名が充てられているのが気に懸かり,今後の学名の取り扱いに注意を喚起したいこともあり,演者は昨年より日本産のシモフリゴケ亜科について,近年欧州でなされた分類学的研究の成果にもとづいて,わが国に分布する属やそれに含まれる種について, 自ら標本を正しく同定できるようになることを目指して,HIRO所蔵の標本を中心に調査・研究を進めてきた.その結果,日本にはRacomitrium (1種),Niphotrichum (5種),Bucklandiella (6種),Codriophortus (3種),Dilutineuron (4種)の5属 (20種)が分布するということがわかってきた.各種について,これまでに作成した写真撮影した画像で紹介する.



尾道市の天然記念物:関 太郎(広島大学・名誉教授)

 尾道市は市政140周年を記念して,『新尾道市史』の刊行を計画し,毎年,1冊ずつ,10年間にわたり刊行するという壮大な計画である.その第1巻 文化財編(上巻),348頁が平成30年度に出版され,監修は三浦正幸・鈴木康之・関太郎があたった.第1巻では,建造物・史跡・名勝・天然記念物が取り上げられ,天然記念物は関[植物]と鈴木盛久広島大学名誉教授[地形・地質]が担当した.

 天然記念物の一般的な定義は,国あるいは地方で,人間が作ったものではなく,自然物として昔から存在し,その地方を代表する,あるいはその地方に固有な動物・植物・地形・地質・鉱物など,並びにその複合体を指している.しかしながら,現在,広く認識されている天然記念物の概念は「文化財保護法」によって指定され,保護を受けている自然物である.

 天然記念物は有形・無形文化財とは違って,はるか昔,弥生時代から数えても2300年,縄文時代からは13000年の年月にわたり,私たちの先祖が守ってきたものである.法律の制定などに関係なく,先祖の自然に対する畏敬の念が守ってきたものである.

 尾道市にある天然記念物は,国指定はなく,広島県指定が9件,尾道市指定が23件である.指定対象に動物はなく,植物が29件,地質が1件,地形が2件である.植物の内訳は単木あるいは少数の本数の巨樹・名木が27件,植生(群落)が2件である.樹種別に見ると,ビャクシン・ウバメガシが各4件,クスノキ・マツ属が3件,ムクノキ・ヤマモモ・モッコクが各2件となっている.瀬戸内海中部の乾燥気候に適応したビャクシンやウバメガシは地域の特性をよく表している.所在地別に見ると,寺社の境内が20件,個人所有地が7件,共有地が2件となっていて,巨樹や名木が信仰の対象として保存されてきたことを物語っている.

 執筆にあたっては,すべての天然記念物を現地調査した.調査は2017年3月から2018年6月まで,市史編さん事務局職員の案内で実施された.

参考文献


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