広島県から記載された種子植物

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広島県から記載された種子植物(広島大学理学部附属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会 1997

上述したササ類のチュウゴクザサやオヌカザサなどのように,広島県で最初に発見され,新種として学界に発表された植物は表2にまとめられている.フランスの宣教師フォーリー(U. Faurie)が1903年に,東北帝国大学の招聘教授であったオーストリアのモーリッシュ(H. Molisch)が1924年に,それぞれ宮島で採集したコケ植物の中には新種が多く,また広島大学にコケ植物の研究者が多い関係から,広島県から新種として発表されたコケ植物は多い.しかし,表2では,種子植物について,広島県から記載されたものをまとめた.

表2 広島県を基準産地とする種子植物
環境庁種番号 和名 文献
11595 テングシデ 堀川 1942a
13240 アキヤマミズ 桧山 1962
13420 フサツクバネ 桧山 1962
19415 サイジョウコウホネ 下田 1991a
19425 ベニオグラコウホネ 下田 1991a
22840 ツメレンゲ Maximowicz 1883
25795 コテリハキンバイ Naruhashi 1968
27905 ウラジロイワガサ Koidzumi 1925
31180 ミヤジマナツトウダイ Hrusawa 1954
32615 タイシャククロウメモドキ 初島 1973
32650 タイシャクイタヤ 緒方 1964a
32720 ミヤジマカエデ Nakai 1913
32520 チュウゴクボダイジュ Hatusima 1972
40760 アキツリガネツツジ 桧山 1964
45500 アキノクサタチバナ Honda 1932
46735 コバノヘクソカズラ Honda 1929
50420 ミヤジマママコナ Tuyama 1941
52050 ヒロシマウツボ Honda 1932
59145 ネコヤマヒゴタイ Kitamura 1933
65180 アオイカズラ Fukuoka & Kurosaki 1991
65810 タイシャクカモジ Ohwi 1937
70830 オヌカザサ Koidzumi 1925
70955 セトウチコスズ Suzuki 1979
71160 ウツクシザサ Koidzumi 1925
71520 チュウゴクザサ Makino 1927
72970 アキテンナンショウ 中井 1939
73955 イトアオスゲ Ohwi 1930
74645 ミセンアオスゲ Okamoto 1965
75165 ビンゴヌカスゲ Okamoto 1965

新種とは,過去の文献を調べても該当する種が見当たらなかった場合に,新しい種(亜種・変種・品種のこともある)として,国際植物命名規約(International Botanical Nomenclature)[4年ごとに開催される国際植物学会議で改定される.1988年版は大橋(1992)の訳がある]に則って発表されるものである.新種の名称は,学名(scientific name)としてラテン語で2名法によって名づけられる.和名の新名も同時に命名されることが多いが,各国語による新名は命名規約になにも規定はない.新種の特徴はラテン語によって記述され,これを記載文という.それに続いて,新種を記載するのに使用した標本が1点だけ引用される.これを正基準標本(単に基準標本ともいう)(holotype)という.多数の個体の中から1点だけ選ぶのであるから,典型的なものと思われがちであるが,必ずしもそうではない場合がある.古い時代の新種記載などでは,複数の標本が引用してあって,基準標本の指定がない場合がある.この場合,引用されたすべての標本が等価値基準標本(syntype)という.その中から,後年,分類学的研究によって,1点の正基準標本が指定された場合,これを選定基準標本(lectotype)といい,残りを副基準標本(paratype)という.

基準標本が採集された場所が,基準(標本)産地(type locality)であって,新種の記載にあたっては明記しなければならない.正基準標本は,人為的に,1点だけ選定されるので,その新種の自然群が生育している基準産地は,将来の研究のためにきわめて重要である.新種の発表は,新聞や一般の雑誌ではなく,学術雑誌あるいは単行本に発表される.この発表がなされる印刷物については,命名規約で明確に規定していないために,しばしば論議の対象となる.新種の発表は,命名規約に違反せずに,学術雑誌などに印刷されれば,手続き上は終了したことになる.世界のどこかに,新種を承認したり登録したりする機関があるわけではない.命名規約に正しく則っていない新種の発表は認められない.例えば,記載文がなくて,新学名だけが印刷される場合がある.このような新種の学名を裸名(nomen nudum)という.広島県の植物の例では,Spiraea miyajimensis Makino ミヤジマシモツケは牧野富太郎・根本莞爾1925. 日本植物総覧,p. 838に学名と和名が印刷されているが,本書あるいはそれ以外のどこにも記載文や基準標本の記述がなく,裸名と見なされる.このような場合,Spiraea miyajimensis Makino nom. nud. と表記して,裸名であることを明らかにしておく.和名だけの“新種”は,まったく無視される場合が多いが,地方植物誌などでは,しばしば,問題になる.広島県の例では,帝釈峡における昭和8年の採集会で,牧野富太郎がタイシャクヒョウタンボクと名付けたものがあり,目録などに載っていた.幸いにも,タイシャクヒョウタンボクと手記された高木哲雄採集の標本が広島大学に保管されており,これはオニヒョウタンボクであることが判明した.

新種が発表されても,それと同じと考えられる種がすでに発表されていれば,先に発表された方の学名になる.これを先取(優先)権(priority)の原則という.同じ種であるかどうかの判定は,研究者によって意見が異なるので,見解の相違が起きる.種の実体は変わらないのに,学名が変更になる場合も多い.すなわち,和名が同じなのに(種の概念は変更なしに),学名の変更というケースはしばしばある.このような場合に,和名は便利である.

一方,種の概念が変わったために,学名が変更になることがある.広島県の例では,アオイカズラは,従来,ヒマラヤから中国,朝鮮半島,日本に広く分布する同一種と考えられてきた.しかし,Fukuoka & Kurosaki (1991)はヒマラヤから東南アジアに分布するStreptolirion volubile Edgew. は中国,朝鮮半島,日本のものとは異なるとの見解を示し,福山市山野峡を基準標本産地として,新種のS. lineare Fukuoka et Kurosaki を発表した.この場合,アオイカズラという和名は変わらないが,種の概念が変更になり,新しい学名がついたので,分類学的には重大な変更になる.

種・亜種・変種・品種などの階級(rank)の概念は,命名規約などで明確に規定されていないので,研究者によって見解の相違がしばしばある.広島県の例では,チュウゴクボダイジュ(Tilia chyugokuensis Hatusima)は広島県山県郡八千代町土師で豊原源太郎が採集した標本に基づいて,初島住彦が新種として1972年に発表したが,山崎(1989)はマンシュウボダイジュの品種[T. mandshurica Rupr. et Maxim. f. chyugokuensis (Hatusima) Yamazaki]との見解をとっている.

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関連ページ

  1. 黎明期
  2. 明治・大正より昭和前期(1868~1945年)
  3. 戦後(1945年)~現代

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